プレートレスPCBガスケットマウント自作キーボードの製作(6)

今回はスイッチをつけてキーボード完成までの記事です。

ガスケット(クッション材)の取り付け

PCBのタブにクッション材となるフォームをつける。タブの下面側は打鍵の衝撃を受けることになるので、できるだけ厚くして柔らかくしたい。そこで厚めの5mm厚のPoronシート(L24)を両面テープで貼り付ける。

 

タブの上面側フォームはケースに合わせて厚さを調整。ケースに入れて底板で挟んだ時にわずかにフォームがつぶれる程度にしたかったので、現物を見ながら最終的に1mm厚のフォームを2枚重ねた。さらにケースのガスケット受けの側面に1mm厚のフォームを貼っておく。ただ、ここは全然当たっていないので、ぎりぎり当たるくらい厚くするほうが水平位置がずれ難くなって良いかもしれない。

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PCBにガスケットのフォームをつける

 

フォームの幅はガスケットタブの幅に合わせたが、これは最適ではないかもしれない。フォームで衝撃吸収させる目的であれば、よくあるガスケットマウントのように幅の広いガスケットが良さそうな気がする。一方で打鍵感をソフトにしたいとか、ケースにPCBの振動をなるべく伝えないということであれば、Equinox XLのようにガスケットの幅を狭くしてケースとの接触面積を減らした方が良さそうな気もする。

 

後者の狙いの場合にはガスケットが硬すぎると結局PCBの弾性で打鍵感が決まってしまうので、よりソフトな打鍵感を目指すならPCBの変形の弾性よりもガスケットを柔らかくする必要があるだろう。現在の状態でもだいぶ柔らかいが、フォームの幅を狭くすればさらにソフトにすることができるはず。とりあえずこれで試してみて、必要があればフォームの幅を狭くしてみよう(面倒だからやらなさそうだけれど)。

 

しかしブログにこんなタイトルをつけておいて言うのもなんだが、ガスケットという呼び方には違和感がある。ガスケットは本来気密性を保つためのシールに使われる言葉だと思うが、キーボードにおけるガスケットは気密性がない。Oリングだったらわからなくもないけれど。まあでもガスケットマウントという言葉がこれだけ定着してしまっているので、この呼称はこのまま使われるのだろう。

 

キースイッチのルブ時に問題発覚

何種類かのスイッチを試してみて、Gateron Pro yellow milkyをつけることにした。$2.5/10個という価格ながらかなり滑らか。コスパ最強ではないだろうか。Cap yellow V2も滑らかだったが、バネを変えたりフランケンスイッチをやろうと思ったら、標準的なハウジング+ステム形状が良いかなと思ったので避けた。

 

スイッチをPCBにはんだづけする前にもちろんルブを行う。スイッチ分解してグリース塗るとか頭おかしいのではと思っていた頃がもはや懐かしい。Krytox 205 GPL g0で1つずつルブしていたのだが、どうもカサカサが目立つ個体がいくつもある。何だろうと思って調べていたら、どうも2種類のスイッチが混じっている。下の写真は比べたもの。あなたは違いがわかりますか?

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2種類のスイッチが混じっている!

ステムのセンターポール先端の形状が異なる。フラットなのがGateron Pro yellow、もう片方はProじゃないGateron yellow milkyだと思われる。こちらはファクトリールブされてなかったので、それでカサカサしたわけだ。我ながらこんなんよく気付いたもんだと思う。一旦気づくと、ステムの色に違いがあることもわかってくる。Proは黄色が濃く、そうでないほうは色が若干薄い。

 

色の違いに気づくことができれば、わざわざ分解しなくても簡単に分類できる。スイッチ選定用として試しに10個購入した以外に、たまたま見つけた送料が安かった($5)別のところから追加で60個購入したのだが、この60個のうち38個がProではないものだった…。販売元にメールしたらすぐに38個分返金してくれたけど、半分以上も違うんだけど?というモヤモヤはある。まあ半額以下でスイッチが購入できたし、考えてもいなかった別のスイッチも体験出来てラッキーと思うことにしておく。

 

Proでないほうもルブすれば悪くないが、ルブしてもカサカサ感が若干残る個体が多く、滑らかさではProに軍配があがる。そこで使用頻度の高いアルファベットのキーにはProを使用し、残りはProじゃないものにする。

 

スイッチパッドの取り付け

今回のキーボードのメインテーマの一つは打鍵音なので、遊舎工房で購入したKBDfans Switch Padsを取り付けてみる。打鍵音に変化を与えることが期待されるもので、スイッチプレートがない場合は特に効きそうな気がする。一応どれくらい効果があるのか調べてみた。真ん中のJの位置の1キーだけ(はんだづけせずに)嵌めて打鍵音を録音し、以前やった周波数解析をやってみた。

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打鍵音の録音

 

下図はスイッチパッドをつけない場合とつけた場合の周波数スペクトルの比較。はっきり言って違いはほとんど見られない。スイッチパッドを入れたほうが若干音が低減されているようにも見えなくもないが、このレベルだと打鍵の力加減の違いの可能性もある。少なくとも自分の耳では打鍵音の違いは判らなかった。でもまあせっかくなので一応つけておくことにした。

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スイッチパッドの有無での周波数スペクトルの比較

 

スイッチパッドをつけることにしたものの、たくさん取り付けるのはなかなか面倒な作業。直接PCBに貼り付けようとすると位置がずれるので、まずスイッチパッドの穴にスイッチのピンを通し、パッドとスイッチを一緒にPCBに挿してパッドをPCBに貼り付けた。これで位置合わせは完璧なのだが数が多いので手間がかかる。キリの良い60枚を貼って一部は面倒になったこともあって省略。これ逆にスイッチ側に貼るほうが実は効果があったりしないだろうか?(試してない。あ、ピンの穴位置が合わないか。)

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(左)スイッチパッドをPCBに貼り付ける前に穴にスイッチのピンを通す
(右)PCBにスイッチパッドを取り付けた

 

スタビライザーの取り付け

次はスタビライザー。使用したスタビライザーはDUROCK V2のスクリューインタイプを使用し、KDBfansのスタビライザーフォームをPCBに貼る。DUROCKのスタビライザーに3Uのワイヤーはないので、遊舎工房で販売している3U用のワイヤーを組み合わせる。

 

スタビライザーの調整がうまくないとカチャカチャ音が鳴ってしまい、どんなに良いケース、スイッチを使っても台無しになってしまう。特にスペースキーは使用頻度が高いので絶対に妥協したくないところ。最近はこのYoutubeのModをやっている。これでたいてい上手くいく。

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苦戦したのは3Uのワイヤを組み合わせたスタビライザー。はじめはバンドエイドを貼ってルブせずにPCBに取り付けて試してみるのだが、この3Uのとこだけカチャカチャしてしまう。粘り強く調べた結果、どうも3Uのワイヤーとの相性が良くないみたい。PCBに取り付けた状態でワイヤーをグリグリすると少しワイヤーが前後に動く。ワイヤーを咥えている部分に若干遊びがあるみたい。一方この遊びは他の2Uのスタビライザーでは見られない。ノギスで3UのワイヤーとDUROCKのやつの太さを測ったらどちらも1.60mmで同じだったが、0.05mm未満の違いなのか場所によって径が違うのか、はたまたスタビライザーのハウジングの個体差なのか…。

 

どうにかこの遊びを無くすことができれば改善するはず。そこでワイヤーを咥えている部分をピンセットで押さえながらドライヤーで熱して少し変形させるというのを試みた。はじめワイヤーをつけない状態で変形させたらワイヤーを嵌められなくなってしまった。変形させるのはワイヤーを通した状態で行う必要がある。変形させたらワイヤーを外したくないので、ルブしてスタビライザーをPCBに取り付け、その状態でドライヤーで熱して変形させた。結果として悪くない感じになった。ルブが効いているのかもしれないが、ワイヤーを咥えている部分に遊びがある場合は熱して変形させるのはありかもしれない。

 

スイッチのはんだ付け

スタビライザーが終わったら、あとは黙々と残りのスイッチをはんだ付けするだけ。ProじゃないGateron yellow milkyはどうも固定ピンが細めでPCBにはめてもゆるゆるなので、しっかり奥まで挿してあるかどうか、曲がって挿さっていないかを気にしながら1個ずつ丁寧にはんだ付けをする。Twitterで片側のピンだけはんだ付けするとよいと教わったので、まずは片側の電極ピン(太いしっかりしたほう)だけはんだ付けし、曲がったりしていないことを確認したらもう片方のピンをはんだ付けする。横から眺めるときれいにそろっているかどうかを確認することができる。

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横から見てスイッチがずれていないことを確認

 

ついに完成!

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キーキャップをつけて完成!

DROPで購入したbiip MT3 Extended 2048のキーキャップを嵌めてついに完成!大きなミスもなく良い感じに仕上がった。右上の黒マットのブロッカープレートは手抜きをして両面テープで固定しているだけなので何とかしたい。手前のアルミ板は鏡面にしたかった部分だが、きれいな鏡面にはならずに鈍い感じ。まあでもこういうものだと思えば悪くない。鏡面って写真撮るの難しいし。

 

ケースは100点満点とはいかないまでも結構満足度は高い。底板とケースの嵌め合い具合、キーキャップとケースの高さの関係や水平方向の隙間など、どの寸法もちょうど良い感じになったのでとても嬉しい。アクリルは結構光を透過するので、上面のアクリル板の裏にLEDを仕込むとぼやっと光って良さそう。まあ自分は光らせないけれど。

 

次の記事では打鍵感を評価するためのフォースカーブ測定や真鍮製ウェイトについて書く予定です。