キーボードによる日本語入力において、かな入力では1ストロークで入力できる割合が増えるため、かな配列の方がローマ字配列よりも合理的である、ということがよく言われています。 これは本当でしょうか? ここではこれを疑って考えてみます。 (最後まで読んでもらえればわかると思いますが、念のため断っておくと、この記事ではローマ字配列・かな配列どちらが優れているかを言いたいわけではありません。)
きっかけ
かなを入力するときにストローク数が減るという点でかな配列の方が優れている、というのをよく見かけるが、これは本当にそうなのだろうか? そんなことを考えるきっかけとなったのはXのこのポスト。
新配列界隈には「ローマ字配列は妥協の産物で、性能面ではかな配列が間違いなく上回っている」みたいな風潮がある気がする。
— ディット (@ditto_fe) 2026年9月22日
ディットさんはかな配列を含む様々な配列を考案・試行し、最終的にローマ字配列を選択している。
Xのポストを拝見する限り、自分が重要視している項目も考慮しているようなので、自分がかな配列を選ぶときに参考にしている。
またキー配列に関する知見は自分よりも豊富で洞察も深そうだ。
さらに驚くべき早さで配列を習得していき、かなりの速さでタイピングできる様子なので説得力がある。
どのような考えで配列を試していき、どういう理由で現在の配列に至ったのか、ぜひ詳細を伺いたいところ。
さて、多くの人はかな配列の方が効率よく日本語入力できると思っているのではないだろうか。 自分もそう思ってかな配列を試し始めた一人だ。 ただ、最近はかな配列がいいのか、それともローマ字配列がいいのか、よくわからなくなってきた。 ここでは、自分がローマ字配列最強と信じている人になったつもりでその優位性について考えを巡らせてみる(そういう頭の体操をしてみる)。
ローマ字配列は覚えやすい
これは誰もが認める利点ではないだろうか。
アルファベットは26文字に対してかなは濁点、半濁点、拗音・促音を除いて考えても47文字だ。
またかなはキーボードのレイヤー1つに収まらないので、通常別のレイヤーにも割り当てを行い、シフト入力を伴う必要がある。
そのため、キー割り当ての地図が平屋でなく2階建て(あるいはそれ以上)になり、立体的にキーマップを覚えなくてはいけない。
一方でローマ字入力では頭の中でかな文字をローマ字に分解する必要がある。 これは慣れると負荷を感じない。ただし初めてキーボードを使って日本語を書こうとする人にとってこれが負荷になるのかどうかはよくわからない。
かな配列はローマ字配列よりも素早く入力できるのか?
タイパーと呼ばれる人たちは超人的スピードのタイピングを行う。 単打率の高いかな配列の方が速く入力できそうに思えるが、依然としてQWERTY配列を使うタイパーは多いらしい。 競技ルールのために標準的なキー配列を使用するという理由がありそうだが、もう一つ理由がある気がする。
タイピング訓練を効率よく行うには?
タイパーの驚異的なタイピングスピードは日々の研鑽によって支えられており、それによって一般に指摘されるQWERTY配列の短所を大きく上回っている。
つまり入力速度における訓練の重要性が証明されているわけである。
では、タイパーが効率よく訓練するにはどうすればいいだろうか?
自分の仮説はこうだ。
文字列の入力を連続する2文字(bigram)に分解して考える。
その組み合わせを考えた場合、ローマ字入力のほうがかな入力に比べて組み合わせ数が少ない。
記号を除いて単純計算すればローマ字は通り、かなは濁点、半濁点、拗音・促音を除いて考えても
通りになる。
ローマ字入力ではtpなどのbigramは出現しないし、通常の文章では出現しない文字パターンもあるので正確ではないが、この大小関係がひっくり返ることはないだろう(だれか確認してほしい)。
タイパーが練習できる時間は1日のうちで限られている。
組み合わせ数の少ないローマ字配列の方が、同じ練習時間の中で1つのbigramに割り当てられる時間を増やすことができる。
ただしtrigram以上の複数文字のチャンク化ということもある。この点を考慮して同じことが言えるのかは何とも言えない。
(以前自分のタイピングを分析したらtrigramの入力時間は2つのbigramの和にはなっていなかった)
もう一点はタイピング時の脳処理の負荷。
タイパーの同人誌『タイピングProfessionals』の中で、タイピングを認識・組立・動作の3段階で考えるモデルがある。
自分はタイパーではないので想像するしかないが、かな配列では特に「組立」の脳負荷が増えるのではないだろうか。
キー割り当ての数が増えるほど次のキーの選択肢が増え、迷いやすくなるからだ。
以上から、タイパーにとってはローマ字配列のほうが有利になるのではと思っているが、どうだろうか?
(タイパーの皆さん、間違っていたら優しく指摘してください)
これはタイパーに限った話ではなく、相対的に遅くタイピングする一般人でもある程度当てはまるだろう。 ただし、一般人の練習量はタイパーにはとても及ばないので、別の要因で打鍵速度が決まるかもしれない。
些細だけどかな入力で少しイライラすること
かな配列を使い始めて気づいたのは、日本語入力中にアルファベットを入力するのが面倒ということ。 自分は英文用のQWERTY配列、日本語用の月見草配列を異なるレイヤーに設定し、レイヤー切り替えキーで入力方法を切り替えている。 アルファベットを入力するときにはレイヤーを切り替えるが、これが面倒だ。 かな入力を導入するまでは、日本語ローマ字入力のIMEの状態のままアルファベットをタイプした後Ctrl+tで無変換をしていたので、英字入力と日本語入力の切り替えをしていなかった。
ローマ字配列、かな配列という分類
かな配列では、一般的なキーボードのキー数だけでは日本語のかな文字を全てカバーできないため、単打だけでは完結しない。
必ずシフトを伴う入力などが必要となる。
様々な方法があり、通常のシフトキーを伴う打鍵や同時押し、前置・後置シフトによる連続ストロークなどがある。
ただ、少し考えてみると、連続ストロークで1つのかな文字を入力するのはローマ字入力でも同じだ。
ローマ字配列とかな配列は全く別のものと思っていたが、見方によっては同じ仲間に分類することもできる。
例えばQWERTY配列でのローマ字入力は、以下の配列図でのタイピングと同じだ。
(ただし単純化のためにここでは一部の拗音や促音は省略している。)

ただしこれだけではきっと同じにはならない。ローマ字入力しているときには、入力途中でtなどのアルファベットが画面に表示される。
これがかな文字をローマ字というアルファベットに分解することを意識させる。
では、このフィードバックを除いたら、つまり単打で不確定時は画面に出力されず、2ストロークしたときにかな文字が表示されるようにしたらどのような感覚になるんだろうか?
このときには後置シフトのかな入力をしている感覚になるんじゃないだろうか。
そうすると、ローマ字配列なのか、かな配列なのか、という分類は、キーキャップの印字の違いやキー配列図の表記の違いにすぎない、ともいえる。
(もちろん人の意識はこの違いによって大きく影響されるのだが)
ローマ字配列、かな配列、というのは新配列を知る入口としてはわかりやすい言葉・分類だ。 ただ、本質は違うところなんじゃないか、などと妄想している。 QWERTY配列でのローマ字入力には馴染めず、そのためにかな配列を好んで使う人たちがいる。 この人たちは、実は連続ストロークで1文字を入力するのが馴染まない人だったりしないだろうか? もしそうだとすると、複数キーの同時押し方式を好んで使っていそうな気がする。 自分は逆に同時押しよりは前置・後置シフトが合うような気がしているし、QWERTY配列はそれなりに手に馴染んでいた。これは例えばキー配列を同時押し方式、逐次打鍵方式という分類で整理したほうが自分の好みを探すうえで見通しが良い気がするのである。
あとがき
繰り返しになりますが、この記事で言いたいのはローマ字配列・かな配列どちらが優れているのか、ということではありません。
ローマ字配列・かな配列という分類に我々は縛られ過ぎていないだろうか、という問いです。
後置シフトとローマ字入力は同じ入力方式として捉えられることに気づいたのは、自分にとって面白い発見でした(そんなこととっくに気づいていた人も多いのでしょうけれど...)。
ローマ字配列 vs かな配列という二項対立で語られることも少なくないですが、それは物の見方を固定化させ、発想を狭めてしまわないでしょうか?
この記事では同時押し方式と逐次打鍵方式という捉え方をしていますが、きっと別の視点もあるはず。
一面的な見方に囚われず、もっと頭をふにゃふにゃにして考えられるようになりたいなぁと思うのです。
(とは言っても、キーボードというハードの形でだいぶバイアスがかかっているんですけどね。)
この記事は自作したオリジナルキーボードunity69で書きました。





