分割型キーボードの自作に再びチャレンジ(5)

自分の悪い姿勢を矯正したくて分割キーボードを製作しています。前回の記事ではケースの塗装について書きました。 今回はケースにつけるThumbプレートの接着や打鍵音の調整について。

Thumbプレート

自分はスペースキー手前のケースの部分に親指を置く癖がある。頑張って塗装した3Dプリントケースが汚れるのを防ぐために、ケースベゼル部分にステンレス製のプレートを接着する。

ヤスリがけ

レーザーカットされたステンレスの板は、切断面がギザギザしているのでやすりがけする。また公差を気にして設計よりも1mm長くしている。これを削って3Dプリントケースとぴったりになるように調整する。ステンレスは1mm削るのもだいぶ大変。 外形寸法が整ったら、角を落としてRをつける。これもケースに(できるだけ)合うようにする。

形が整ったら、あとは磨きの作業。#400バフ研磨の板のカットを業者に依頼したが、研磨面を指定し忘れて片側の上面は研磨の無い粗い面になっている。左右両側で質感を揃えたいので頑張って磨いて鏡面に仕上げる。

最初、耐水ヤスリで600番、1000番、2000番と水研ぎした後、極細目のコンパウンドで磨いた。 この工程だとどうも傷がついてしまうことがあるみたいで、コンパウンドで仕上げた後に少し傷が残ってしまう。 納品時の#400バフ研磨はそのような傷が無いので、少し質感が異なってしまう。 これは(スマホで)写真を撮ってみるとよくわかる(下図)。

写真を撮ってみると、表面に傷があるのがよくわかる。左の板は目立つ傷が幾つかある。

そこで、1000番、2000番、…10000番の耐水ヤスリで磨いた後、粗目、細目、極細目のコンパウンドで磨いた。こっちの方が傷がつきづらい。粗目のコンパウンドで磨くのが重要な気がする。10000番までの耐水ヤスリの必要はないかもしれない。 ただし細かい傷を完全に無くすことはできなかった。目立つ傷はなくなって、鏡面に写る像のくっきり具合(ぼやけ具合)の差がわからない程度には左右の質感を統一することができたので良しとする。

左右のThumbプレートの質感を合わせる(写りこんでいるのは部屋の壁紙)

これやってみてよくわかったが、手作業できれいに面・辺を保つようにやすりがけするのは難しい。面積の狭い面は油断すると丸みを帯びて曲面になってしまったり、辺の角度が斜めになってしまう。Thumbプレートの出来は自分的には70点ぐらい。まだまだ修行が足りない。 X(Twitter)で時々目にする時計師の磨きは本当にすごいと思う。一度指南を受けてみたい。

接着

磨きの作業が終わったら接着。接着剤は3M ScotchのPremier GOLDを使用。この接着剤はいろんなものを接着できるのと、硬化後はゴムみたいになって、失敗してもこすると消しゴムみたいな感覚で割と容易に取り除くことができるのがいい。 そうはいってもThumbプレートがずれた状態でくっついてしまうとおそらく修正不可なので、接着手順と固定の段取りを考えてから作業に移る。

自分はいつも接着剤を厚めに塗ってしまうので、気持ち薄めに塗り、ケースの外側にはみ出ないように気を付ける。 Thumbプレートを接着面に載せた後、クランプで固定する。 以前、板がずれた状態で接着してしまったことがあったので、ずれていないか何度も確認。 固定後、少し板の位置がずれていたので修正。 接着を開始してから数時間はずれていないかをちょくちょく確認した(最初の1時間くらいでもいいかもしれない)。

Thumbプレートを接着!

ただ、外側にはみ出ないように塗ったつもりだったのに、接着剤がケース側面に…。この接着剤は粘度が高くて糸引くので、それがケース側面に付着してしまったようだ。接着剤の硬化後に取り除くことを試みる。塗装がはがれるかもしれないと思いながら恐る恐るこすったら無事接着剤だけ取り除くことができた。良かった~。

接着剤がケース側面についてしまった(左)けど、こすったら無事取れた(右)

Thumbプレートの削りで少し辺が傾いていたり、3Dプリントケース側の角がちゃんと出ていなかったりで100点満点とはいかないが、ずれることなくしっかり接着できたので仕上がりには満足。

接着完了。いい感じ!

組み立て

設計していたすべてのパーツが完成したので組み立てる。

底面のウレタンクッション

3Dプリントケースの底面にウレタンクッションを貼り付ける。1mmのへこみに対して2mmの高さのクッションを貼り付けたので、かなりギリギリ。底板を止めるのに低頭ねじを使うことで、ねじが机につくことなく置けた。良かった…。ケース接着面のへこみは0.5mmくらいでも良さそう。

ウレタンクッションの高さがギリギリ

一応ねじは机には当たっていない

打鍵音の調整

今作の分割キーボードは普段使うつもりで作っている。打鍵音が残念だと自分は使わなくなってしまうので、ある程度自分が満足できる打鍵音にする必要がある。 これまで自作してきたキーボードは静音寄りの打鍵音だったので、(うるさくない程度に)それなりに音が鳴る感じを目指す。 とりあえずで組み上げたときには全く打鍵音に満足できなかったので色々調整を行った。

キーキャップ

最初に組み立てたときは、MT3 Extended 2048をつけた。

MT3 Extended 2048をつけた、の図

今回塗装したケースの色と白いキーキャップはよく合うのだけれど、最近はどうもMT3プロファイルのキーキャップはタイプしづらい。 そこで新しく作ったキーボード用にキーキャップを新たに購入することにした。 最終的に購入したのはKAT operator。 自分的にはタイプしやすいKATプロファイル、PBTのダブルショットであること、また刻印が柔らかい印象なのが気に入ったので購入。 ケースの色と少し色味が異なるが、ケースの塗装が終わった後で出会ってしまったのでしょうがない。

KAT operatorをつけた、の図

MT3 Extended 2048をつけていた時は打鍵音がカチャカチャした感じであったが、KAT operatorにしたらだいぶ打鍵音が好みに近づいた。 これはキーキャップの厚さからくるのだろうか。 今作は音がある程度鳴るということもあってか、キーキャップが打鍵音に大きな影響を与える要因の一つだった。

スイッチの選定

これまでは柔らかい控え目な印象の打鍵音を好んでいたので、ステムのポールが長いスイッチは避けていた。 ロングポールのスイッチは底打ち時にポールがボトムハウジングをたたいて軽快な音を鳴らす傾向があるからだ。 今回は音が(それなりに)鳴る、という方針にしたのでロングポールのスイッチも選択肢に含めてスイッチを選定した。

自分はちょいちょい気になるスイッチを5個や10個単位で購入している。 こうして買いだめしておいたスイッチをランダムな位置につけ、キーキャップをつける。 しばらくするとどこにどのスイッチをつけたかわからなくなるのでブラインドテストになる。 しばらく使ってみると、このキーの打鍵音は好きになれない、というのが出てくる。 そういうキーのスイッチを数個取ったら全部同じスイッチ、となったので打鍵音が好みでないスイッチを特定するのには良さそうだ。

一方好みの打鍵音のスイッチを特定するのは結構難しい。 というか自分の好みの音がどういう音なのかを特定するのが難しい。 でも繰り返しキーを打鍵しているとだんだん自分の好みがわかってくる。 カチャカチャというような音が混じるのは好みでないことが分かり、音が軽快に鳴るものでも雑味の無い音のスイッチを求めていることが分かってきた。

1キーずつ押して打鍵音を確認し、好みと思ったらスイッチを位置を変更して同じことを行う。 これはスイッチをつけた位置が変わると打鍵音も変わるからだ。 最終的に自分の持っているスイッチの中で最も好みの打鍵音と感じたのは、MMD Vivian switchだった。 国内のベンダーは売り切れ状態だったのでAliexpressで調達した。

Vivian switch(35g)を調達

MMD Vivian swithはステムのセンターポールが長めのいわゆるロングポール。 自分はカサカサ感が嫌いで滑らかなスイッチを好んで使うが、このスイッチはファクトリールブでも十分滑らか。 最近のスイッチは本当によくできている。 素材のためだろうか(最近いろんな素材が出てきているので全然ついていけていない...)。

ファクトリールブでも十分滑らかで使用するには問題ないが、Krytox GPL 205g0でルブしてみると、明らかに打鍵音が変化する。 少しだけあった打鍵音の雑味がなくなって少ししっとりした印象になり、自分の好みに近づく。 やはりルブはさぼってはいけない。 今回は以下の部分にルブした。

  • ステムの側面部分
  • ステムのセンターポールの底面と側面(とくに底面はベチョ感が出ないように薄めに)
  • バネ(引っこ抜いた状態でらせんの内側からルブを塗る)

スペースキー用のスイッチの選定

メインのスイッチが決まったら、それに合わせてスペースキーのスイッチを選定する。 アルファベットキーとスペースキーの打鍵音のバランスで決める。 スタビライザーのついているスペースキーはどちらかというと音が大きくなる傾向がある。 また押下後、上に戻った時の音が目立つ傾向がある。 逆に音を目立たせて打鍵音のアクセントにするという考え方もあるけれど、 打鍵音の大きさがなるべくアルファベットキーのに近いものにすることにした。

そうするとなるべく音が控え目のスイッチになる。 かなり音が抑えられたのはsea glass switch。 これを使うとかなり静音に近づく。 ただしあまりにも音が静かすぎてMMD vivianとバランスが悪いので却下。 結局DUROCK Mamba switchが一番バランスが良いと感じた。 このスイッチにもルブを施す。 戻りの音が少し目立っていたので、MMD vivianスイッチのルブと同じようにするのに加えてトップハウジングのステムが戻ってきたときに当たる部分にルブを少し塗る。 これでだいぶ打鍵音のバランスがとれた。

しかしスイッチの選定は本当に難しい。 同じスイッチをアルファベットなどの1uのキーにつけた場合と、スタビライザーのついたスペースキーにつけた場合で打鍵音の印象は大きく異なる。 実際DUROCK Mamba switchをスペースキーにつけた場合の音が結構いいなと思ってアルファベットキーについて打鍵音を試してみると、これは違うなとなった。 逆に考えると、アルファベットキーにつけていまいちと思ったスイッチでも、スタビライザー付きスペースキーにつけると好みの打鍵音になることがあるということ。 これに気づいたことで、イマイチだなと思っていたスイッチも手放せなくなってしまった。

シリコーンシート

最初はアクリル製のスイッチプレートとPCBを2mm厚のスペーサーを挟んでM1.4のねじで固定していた。 しかしこれだと打鍵音がカチャカチャ感があったので2mm厚のスペーサーの代わりにシリコーンシートをプレートとPCBの間に挟むことにした。

シリコーンシートにスイッチプレートを当てた状態で穴の部分をカットしていく。

シリコーンシートをカットしていく

はじめ彫刻刀でカット作業していたが刃の厚みが結構あるので、プレート穴の14mmx14mmの四角より少し小さめの穴になってしまう。 シリコーンシートの穴が小さすぎるとスイッチを奥まで挿入できない。 そこで途中からOLFAのアートナイフ157Bを新たに購入して使用した。 もっと早くから買っておけばよかったと後悔した。このアートナイフは刃が薄いし、切れ味が良いのできれいにカットできる。やはり道具をケチってはいけない。

完成したシリコーンシートを挟んだ状態

今思い返すと、2mm厚のスペーサーのときの打鍵音のカチャカチャ感はMT3プロファイルのキーキャップのせいだったかもしれない。

ポロンシート

上の対処でかなり好みの打鍵音になったが、ケース内で低めの音が響く感じがあったので、PCBの下に3mm厚のポロンシートを入れた。 これを入れたためにガスケットマウントというよりはスタックマウントに近い状態となった。

打鍵音はこちら

録音した打鍵音の動画(というよりは静止画+音声)がこれ。 www.youtube.com

打鍵音総評

これまで忌避してきたロングポールのスイッチを使って打鍵音を色々調整したが、雑味を無くしてルブやシリコーンシート、ポロンシートで少し打鍵音を柔らかくしてあげると、全然ありだということが分かった。 音はプラスチック感がありつつもカチャカチャした音はだいぶ抑えられているので、それなりに打鍵音が鳴るけれど嫌な感じは全然ない。 100点満点中85点という感じ。

エンドゲームの100点満点でないのは、キーによっては底板が鳴っている感じがあったり、またスイッチによっては少し音に雑味があるから。 後者はスイッチの個体差によるものな気がする。選りすぐる必要があるということだろうか…。 あるいは、スイッチプレートのスイッチをはめる穴に少し遊びがある。シリコーンシートを挟んだおかげでぐらつきが抑えられているスイッチもあるが、全てではない。もう少しスイッチプレートの穴をきつくしたものを作ってもいいかもしれない。

まとめ

ということで姿勢を良くすることを目的として2作目の分割キーボードを自作しました。 塗装した色が独特なので俺のキーボード感があって、とても気に入っています。 また分割キーボード1作目の反省を活かして様々な点を改善したので、かなり満足度の高いキーボードができました。 強いて不満を挙げるとすれば、ケースの色が写真映えしないことくらいです(これはきっと自分の撮影の腕が無いせい)。 打鍵音も心地好いので長いこと使い続けることができそうです。 後はこのキーボードをしばらく使い続けて姿勢を矯正するだけだけれど、果たして分割キーボードの効果はあるのか…。

この記事は自作分割キーボードPosture3338で書きました。