3Dプリントで作った分割キーボードケースの塗装にチャレンジしてみました。
- 3Dプリントサービスを利用して作ったケース
- どうやって塗装すればいいの?
- 塗装の予行練習
- 塗装の準備
- まずは左手側ケースの塗装
- 左手側ケースの塗装の反省点
- 右手側ケースの塗装準備
- 右手側ケースの塗装
- 左手側ケースの修正
- ケース内壁にトップコートを追加
- 完成!
- あとがき
3Dプリントサービスを利用して作ったケース
最近自作した分割型のキーボードopyc3437ではJLCPCBの3Dプリントサービスを利用してケースを作った。3Dプリントサービスを利用すると、立体的なケースを作成することができるけれど、そのままだと白くて味気ない(素材のそのままの質感を味わうというのもあるかもしれないけれど)。ケースの見た目が良いとやっぱりテンションが上がるし、だからなんかこう良い感じにしたい。そんなわけで全く経験のない塗装にチャレンジしてみることにした。
どうやって塗装すればいいの?
これまでの人生では塗装と全く縁がなかったので、どうしたら良いか右も左もわからない。調べてるとプラモデルの塗装について情報が多く見つかる。3Dプリントされたものの塗装について例をあまり見つけられなかったが、一番参考になったのは下記のサイト。
こんなふうに綺麗に塗装できるようになりたい。
手順はこのページに従うことにして、どうやってスプレーを吹くのかをYouTubeで調べる。丁寧にやり方を説明しつつ実演してくれている動画がたくさん見つかる。いや~、いい時代ですね。ポイントは
- 使用前にスプレー缶よく振る。
- 10cmくらい離して吹く。
- 吹き始め、吹き終わりの時は対象物から外す。
- 吹き足りないくらいで止める。後で足せる。吹き過ぎてはダメ。
- 塗装、乾燥を繰り返す。
という点かな。
さて、どんな色にしようか?上のクワガタの塗装の例のようにメタリックな色に憧れる。メタリックで明るい色だとうるさい感じになるかなと思い、暗めの色にする。結局ディープメタリックブルーにすることにした。またトップコートも落ち着いた仕上がりにすることを意図して艶消しを用いることにした。
使用したのは以下のスプレー。
※2022/07/23追記
サリチル酸さんは数年前にMJFの3Dプリントしたケースの塗装をしていたようです(この記事を見つけられなかった我が検索力よ…)。3Dプリントされた自作キーボードケースの塗装をしてみたい方はこちらも参考になるかと思います。
Colosseum44のビルドログ(準備~塗装編) - 自作キーボード温泉街の歩き方
塗装の予行練習
いきなり本番は怖いので、適当なプラスチックに吹き付けてみて練習。練習台にしたのはケーブルを束ねるコイル状のプラスチック。試しに塗装して練習&仕上がりの色や質感を確認。つや消しのトップコートを吹くとかなり落ち着いた感じになる。ぼんやりイメージしていた質感に近かったのでこのスプレー缶の組み合わせで良さそう。
塗装の準備
塗装する分割キーボードはしばらく使用していたので塗装前に洗浄したい。でも3Dプリント素材のLEDO6060の耐水性が気になる。調べてみるとWenextのページにはwaterproofとあったので大丈夫そう。本当は脱脂とかするべきなんだろうけど、何が使えるかがわからない...。結局水洗いだけにして中性洗剤とかを使うのはやめておいた。
塗装するときに持ち手を用意する必要がある。練習したときに使ったワニ口クリップが先端に付いた竹串みたいなやつは、プラモデルの塗装によく使われているみたい。ただしキーボードケースは大きいし重量もある程度あるので同じものは使えない。
どうしたもんかと少し考えたが、割りばしをケースねじ穴に結束ワイヤーを利用して固定し、それをダンボールで作った三角の柱に固定した。簡易的に作った割には悪くない。
マンション住まいなので塗装はベランダで。ベランダを塗装してしまわないようにダンボールで簡易的な塗装ブース(という名のただの箱)を作ってその中で塗装をすることにした。
まずは左手側ケースの塗装
サーフェイサー
サーフェイサーを吹く。最初に薄く吹き付け、20分ほど待って乾かす。その後さらに吹き付け、素材の元の色が見えず、表面全体がグレーになるまで吹いた。下の写真は2回目の吹き付けの後。
カラー塗装
サーフェイサーが乾いたらカラー塗装。練習で結構な量を消費していたためか、1回目のケース塗装中にスプレーが切れた。切れる直前はドバっと霧が大きくなることがあり、ケースの一部に大きな水玉ができてしまった。
スプレー缶を補充して別の日に2回目の塗装。表面が一様に濡れるくらい吹き付けた。あまりやりすぎると水たまりみたいになってしまうので、その手前でやめるイメージ。結構厚塗りかもしれない。完了したら20分くらい乾燥させる。
トップコート
2回のカラー塗装のあとはトップコート。まず側面の4面が一様に濡れるくらい吹く。その後上面を吹き始めるが、吹き始めたところでスプレーが切れる。次の缶を2分程度振って再開。上面が一様に濡れるくらい吹く。その後20分程度乾燥。
2回目はキーキャップのすぐそばになるケース内壁も塗ることを意識して吹き付ける。スプレー缶が切れてしまったので終了。だいたい全体に吹きかけたが、一部ドバっと吹き出て玉になってしまった。とりあえずこれで左側ケースの塗装は終了。
左手側ケースの塗装の反省点
やってみるといろいろわかる。
- 全体が一様に濡れる程度に色の塗装・トップコートの吹き付けを行うと仕上がりが良い
- ケース左手側の塗装に必要な量はだいたい以下の通り
- サーフェイサー170ml缶 x 1本
- カラー 100ml缶 x 1.5本
- トップコート100ml缶 x 1.5~2本
初めてやったこともあって、どちらかというと反省点が多い。
塗装前でケース全体が白い色の状態では気にならなかった3Dプリントの積層痕や小さな窪み・傷などは、塗装後だとはっきりとわかるようになる。これはサーフェイサーを吹いた時点でよくわかるのだが、1000番のサーフェイサーでは番手が細かすぎて消すことはできない。良い仕上がりにするためには塗装前に十分にやすりがけをしておく必要がある。
また、積層痕が見えない面でもサーフェイサーを吹いただけだと表面がざらざらしている。仕上がりにこだわるなら参考にしたページにあるようにサーフェイサーを吹いた後に爪磨きややすりなどで表面をつるつるにしたほうが良いだろう。
ダンボールの柱は少し不安定で何度か転倒させてしまった…。転倒させるとゴミがついたり傷ついて塗装が剥げたりして、良いことは何もない。もっと低くていいし、安定性が大事。あるいは塗装後の乾燥は室内のほうが良いかもしれない。
良い仕上がりのためには、スプレー缶が切れる直前を見極めるのが非常に重要であることがわかった。切れる直前は塗料の出が少なくなったりして安定しなくなる。もったいなから使い切りたいと思ってさらに続けるとドバっと出て霧の球が大きくなり、これが対象物に乗ると大きな(といっても1mmくらいの)玉になってしまう…。
スプレー缶はケチらずに、切れかかったら多少残っていても新しいものに交換したほうが良い。缶の塗料の量が減ってくると、缶の中の撹拌玉のカラカラとした音が良く響くようになる。これとスプレー時の塗料の出具合からスプレーの交換タイミングをよく見極める必要がある。
最も難しいと感じたのはトップコートの吹き方。出来上がったものの表面は若干白化しているように見えなくもない。雨の日のような湿度が高い状況だと白化するというのは事前に調べたときに目にしたのでこれが原因かと思った。ただ窓全開状態の部屋の湿度計は50%程度だったので、湿気が問題ではなさそう。吹き付けすぎなのだろうか?
右手側ケースの塗装準備
いろいろしくじった左手側の反省を活かし、まずはサーフェイサーを軽く吹いてケース表面の凸凹を見えやすくする。そしてやすりがけ。グレーのサフが削られて元の3Dプリントの素材が見えるくらいで積層痕がはっきりと見える。これがなくなるまで320番のやすりで磨いた。
いくつか小さな凹みや傷があるが、すべて除去しようとするとだいぶ削る必要がありそうなので諦めた。そういう場所はサフを集中的に吹いてもいいのかもしれない。積層痕が見えなくなったら600番でやする。さらに1000番くらいでやすったほうが良い気がするけれど、それはサフが埋めてくれることを期待して省略。
やすりがけが終わったら水洗い。粉が角に残ったりするので綿棒で削りカスを取り除いておく。その後、左手側と同じ要領で塗装用の持ち手を作る。今度はダンボールの柱の背を低くして安定性が良くなるように丁寧に作る。
右手側ケースの塗装
塗装準備が整ったらサーフェイサーを吹く。1回軽く吹いた後20分程度乾燥。その後2回目のサーフェイサーを吹く。2回目は表面が全部覆われて3Dプリンタの素材が見えなくなるくらいまで吹く。吹き終わったら1時間くらい乾燥させた。
乾燥後表面を指でなぞってみると、やっぱりザラザラしている。今度はここで磨きの工程を加えてみる。あらかじめ準備しておいた爪磨き#1000で表面を軽くやする。数回磨いたら指でなぞって感触を確かめる、というのを繰り返して表面全体がつるつるになるまでこれを行う。トップコートがつや消し仕上げなので目立たない気がするけれど、光沢のあるトップコートであればこの工程は重要だろう。磨き終わったら水洗いして粉を落とす。
次はカラー塗装。これも2回に分けて吹く。1回目に軽く吹き付けて15分乾燥。その後もう一度吹き付ける。面が一様に濡れるくらい吹き付ける。ただしやり過ぎないように。今回はスプレー缶が切れるのをちゃんと見極めたので、塗料がドバっとでることもなくきれいに塗装できた。
さて、次は問題のトップコート。左手側ケースの時を反省して吹き付けすぎないことを意識してみる。1面ずつ一様に濡れるくらい吹き付ける。乾燥後割といい仕上がりだが、トップコート1回だと耐久性は大丈夫だろうか?心配なので乾燥後にもう一度吹き付けてみることにした。
ただ、吹き付けすぎて左手側のように仕上がりが白っぽくなってしまう心配がある。そこで一番目につかない背面側だけ2回目の吹き付けを行い、様子を見てみることにした。1回目と同様に面全体が一様に薄く濡れるくらい吹き付けた。これを行っているときに、吹き付けていない上面側が白い粉が吹いているみたいになっているに気づく...。そこで上面も吹き付けることに。ただ、ここでトップコートが切れかけてきたので中断する。
この時に一つの仮説が浮かぶ。塗装ブースという名のダンボール箱の中でスプレーしていると、対象物にかからなかった霧が結構長い時間ダンボール箱の中を漂う。これが塗装していない乾燥した状態の面に付着すると、白い粉が吹いた状態になるのではなかろうか?
だとすると、ケース全ての面が一様に濡れる状態になるように素早く吹き付ければいいのではないかと考えた。さらにダンボール箱のような半分閉じた空間だと霧が長時間漂うので、比較的換気の良いところで吹くほうが良いはず。
そこでもう一度トップコートを吹くことにした。これはダンボール箱の中では行わず手に持った状態で行う。トップコートは透明なので、ベランダに多少付いてもわからないし。全体が薄く一様に濡れる程度に素早く吹き付ける。その後乾燥。ベランダに置いておくと風で転倒させそうだったので室内で。
結果としてこれが正解みたい。左手側にあったような白い粉が吹いたような様子はなく、いい感じの仕上がりになった。
左手側ケースの修正
左手側ケースは特にトップコートでのしくじりが残念。ドバっと出たところが白い塊になっていたり、一部は吹き付けすぎ(?)で白いポツポツができている。この修正を試みる。まずは薄め液をつけてみた。使用したのはこれ。
薄め液を少しだけ紙コップにとってそれを綿棒につけ、白い塊のところをトントンしてみる。多少目立たなくはなるが、完全には除去できない。さらに少しゴシゴシ擦ってみる。これも大差ない。どちらも乾いた後の質感が他と違う…。薄め液での対処はいまいちのようだ。
次にやすりをかけてみる。トップコートの白いポツポツを取ることができるが、見た目が変わってしまう。トップコートの層が除去されたからかな?
薄め液ややすりをかけた場所の質感がだいぶ値がてしまっているので、最後にトップコートを一部に吹く。乾燥したのを見るとだいぶ目立たなくなった。ヨシ!
ケース内壁にトップコートを追加
塗装の作業をして気になり始めたのはケース内壁の部分。ここはキーキャップと接近するところ。ここをしっかり塗装するのはちょっと無理。キーキャップをつければほとんど見えないのだが、気になるのはトップコートの塗り。これが不十分だとキーキャップが少しあたった時に色が移りそう...。それは絶対に避けたい。
そこでトップコートをこの内壁部分に追加することにした。スプレーでこの狭い領域を狙って吹きかけるのは無理なので筆で塗る。トップコートを紙コップの中に少量吹く。これを筆で取って内壁に塗る。粘度が高いので塗りづらい。後で思ったけど上の薄め液を少し足せばよかったかもしれない。塗りが難しいために少し失敗して上面側にはみ出してしまった…。
完成!
塗装してから2日程度乾燥させた後、基板とキーキャップを再び取り付けて完成!初めて挑戦した割には悪くない仕上がり。2回目に塗装した右手のほうが表面の質感が良い。多分サーフェイサーの後に磨いたのが効いているのだと思う。やっぱり手間をかけるほどいいものになりますね。
色の選択はばっちり自分のイメージしていた通り。暗めの青だけれどメタリック感がでしゃばることなく主張していていい感じ。写真だとわかりづらいけれど左右で色の深さが少し違う。右のほうが少し明るくて左は少し暗くて濃い。これはカラー塗装の厚さが違うせいだろうか?やっぱり塗装は難しくて奥が深い。こういうのやってみるとキーキャップで色を均一にするのとかすごいなと思う。
一つだけ心配なのは色落ち。これはしばらく使ってみないことにはわからないけれど、今のところ手が青くはなっていない。
あとがき
3Dプリントしたケースの塗装にチャレンジしてみました。試行錯誤しましたが、結構良い仕上がりになったと思います。これができると、3Dプリントで任意の形状のケースを作り、塗装で好きな色・質感にできるので、キーボードケース製作の可能性がぐんと広がります。
この記事は自作分割型キーボードopyc3437で書きました。