スタビライザーの打鍵音テスト

自作キーボードの最近の発展は目覚ましいものがある。スイッチやプレート素材、ケースのマウント方法などバリエーションが実に多彩だ。一方であまり種類がないのがスタビライザー。何も手を加えないと必ずカチャカチャと鳴るわりに、選択肢はそれほど多くない。今回はそんなスタビライザーの打鍵音についての記事です。

自分の定番スタビライザーMod

最近の自分の定番はスクリューインタイプのDROCKのV2のスタビライザーとなっている。ただしそのままではやはり打鍵音がうるさく感じるので、PCBにKBDfans Stabilizers foam sticker (20Pcs) – 遊舎工房を貼り付け、さらに以下のModを施す。

www.youtube.com

これでカチャカチャ音はしなくなり、安っぽい音からは一応解放される。ただしキースイッチの打鍵音が静かな場合には、アルファベットキーの打鍵音に比べてスタビライザーのついているキー、特に6.25uのスペースキーはどうしても打鍵音が目立ってしまう。そのためにタイピング時の打鍵音のバランスがいまいちだなーと感じていた(打鍵音のアクセントになっているという考え方もあるけど)。何とかしたいのだが、いまだに解決策はわからない。

 

スタビライザー打鍵音のテスト用基板

昨年作ったPCBガスケットマウントの打鍵音がだいぶ気に入ったので、普段使いの68キーの配列で基板を作ろうとしている。以前作ったPCBのスイッチのフットプリントを変えてにタブつけるだけでできるのだが、ただ作るだけなのは面白くないので新しい要素を取り入れたいなと考えていた。そんな時にこの記事のことを思い出す。

 

shirogane-lab.com

ビリヤードトラックボール、射出成型、自作キーボード専門店実店舗などたくさん目を引くところがあるのだけれど、自分が気になったのはPCBのスタビライザーのところに穴が空いている部分。これがどういう意図なのかはわからないが、穴空いていると打鍵どうなるんだろうか、という疑問がわく。打鍵音は体感しないとわからないので自分で基板を作って試してみることにした。いきなり本番の68キー用のPCBに取り入れるのはちょっと不安だったので、テスト基板を作って試してみることにした。基板は100mm x 100mmだとお安く製作できるので、6.25uはおさまらないが、8パターンの2uスタビライザーのフットプリントを試してみることにした。下の図が実際に作った基板。

f:id:kgnwsknt_chef:20220130205040p:plain

スタビライザーテスト基板

左上がスタンダードなもので、それに対してtest1-8はステムがあたる部分に穴を空けた。特にtest2はかなり攻めたもので、底打ち時はステムがすっぽり穴に入るので基板に当たらない。test9,10はスタビライザーのハウジングの周りに縦のカットを入れたもの。KiCadのフットプリントエディタで作ったが、エディタでは丸穴か長穴しか使えないみたいなので、長穴を複数組み合わせて穴を空けた。基板は1.6mm厚にし、JLCPCBに発注した。これ送料込みで千円かからない。これでビジネスが成立するのは本当にすごい。

 

打鍵音を比較

基板が届いたらさっそくテストしてみる。余っているスタビライザーが沢山ないのだが、1個だと打鍵・つけかえ・打鍵となって記憶した音と比較しないといけないので、2個をテスト基板につけて打鍵音を比較する。使用したのはDUROCK V2ですでに上に述べたHolee Modを施したもの。

 

はじめ基板にゴム足をつけて机の上に置いて試してみたが、基板が歪んでいて4つの足の1つが浮いてしまうのと、木製の机の振動音が目立ってしまう。そこでPoronフォーム3mm厚の上に置いて打鍵した音を調べた。使ったスイッチはGateron yellow 乳白色トップ、黒ボトムをKrytox GPL205g0でルブしたもの。8種類のフットプリントに加えて、最近よく利用するKBDfans stabilizers foam stickerを標準的なフットプリントに貼り付けた場合の音との比較も行った。

 

打鍵音を耳で聴いた印象は以下の通り。

  • スタンダードなものはスタビライザーのステムの底打ちの音が響く。
  • test2はスタビライザーステムの底打ち音がなくてだいぶ静かになる。
  • 他はスタンダードなものと大きな違いはないが、音の高低の違いはある気がする。
  • test2とスタビライザーフォームは同じ程度に静かになる。test2はキースイッチの底打ちが、フォームはスタビライザー側の底打ち音で決まっている気がする。底打ちの静かさはtest2がやや優れているか。

test2は使い物にならないのではないかと予想していたが、変なブレなどないし特に問題ない。まあブレはワイヤーで制御されているので当たり前と言えば当たり前か。音が静かな原因は底打ち時にステムがPCBに当たらないおかげ。

f:id:kgnwsknt_chef:20220130213201j:plain

テスト基板の裏面。test2にスタビライザーがついている。

 

ただし、実はそれだけではなくスタビライザーのワイヤーがステムを強くヒットしないことも原因であると思う。キーキャップをtest2の時に特に意識せずに嵌めると、スタビライザーのステムの十字部分はキーキャップの奥までささらないで半挿し状態になる。

f:id:kgnwsknt_chef:20220206182955j:plain
f:id:kgnwsknt_chef:20220206183003j:plain
スタビライザーのステムを半挿しにした場合と奥まで挿し込んだ場合

 

この状態だと底打ち時の打鍵音は小さく静か。一方、PCB底面の穴からスタビライザーステムを押し込んで十字の部分をしっかり奥までキーキャップにはめ込むと、底打ち時の打鍵音が大きくなる。これは下の写真で示しているステム内底面にワイヤーがあたるせいではないかと思う。

f:id:kgnwsknt_chef:20220130212942p:plain

ステムをキーキャップの奥まで挿入し、キーを底打ちした状態。赤い四角の部分がおそらく当たる

 

記録のために最近導入したマイクで打鍵音を録音した。やってみてわかったが、打鍵の強さによって音の大小がかなり変わる。微妙な打鍵音の大小はこれから判断するのは難しい。1つずつ録音すると、音の違いが打鍵の強さのせいかどうかが判断できないので、1回の録音で2つのキーを交互に打鍵して録音した。これなら2つの打鍵の強さは大きくは変わらないはず。

www.youtube.com

しかしこの動画、マニアックすぎる…

まとめ

基板に穴をぱっくりあけるとかなりスタビライザーの底打ち音を低減できることがわかった。これは市販されているものでもドリルで穴を空けてやすりがけするなどすれば同じことができる。(ただしそこに配線がある場合はできないけれど…。)

 

この穴を空ける方法では、キースイッチで底打ちの打鍵音が決まっている気がするので、静音スイッチを使用するとかなり底打ちが静かになるのではないかと思う。

 

ステムを半挿ししているだけだと再現性が不安なので、キーキャップとの間に1.5mm厚くらいの何かを挟みたいところ。あるいはステム内側の底面にもバンドエイドを貼るといいのかもしれない。いずれにせよtest2のように穴がぱっくり空いたフットプリントを次に作る基板に取り入れてみようかな。

 

この記事はプレートレスPCBガスケットマウント自作キーボードrelief64で書きました。