前回自作したプレートレスPCBガスケットマウントキーボードの打鍵音がかなり自分のエンドゲームに近い気がしていたので、いくつかの不満点を解消すべく2作目を製作しました。今回はそれについての記事です。
1作目の改善したい点
2021年の終わりにプレートレスPCBガスケットマウントのキーボードを自作した(記事のシリーズはここ)。打鍵音に興味を持って作った試験的なキーボードで、
- プレートレスPCBガスケットマウント
- 5mm厚のPoronフォームの吸音材
- ケースをアクリル箱組
- アクリルレーザーカットでガスケット受けを作って接着
- ほぼ60%キーボード(ケースサイズは65%)
という特徴がある。結果的には打鍵音がかなり気に入り、これを作ってからはこのキーボードばかりを使用していた。試しに作った割に出来が良いのだが、しばらく使っていると不満が出てくるのが人間というもの。それらは以下の点。
- Delキーは単独が良い
- PageUpなどはModifierと矢印の組み合わせだが、少し煩わしいのでこれも単独キーが良い
- Gateron pro yellow milky topは安い割に良いスイッチだが、やっぱりカサカサ感が気になるので滑らかなリニアスイッチが良い
- 打鍵音はかなり好みだが、底打ち音がやや硬くてうるさい。もう少し控えめで柔らかい音にしたい。
これらの不満を解消したいというのがきっかけだが、これを行うのにちょうどいい素材があったことがトリガーとなった。以前5mm厚のシリコーンシートを用いてほぼプレートレスのキーボードの製作にトライしたが、残念ながらこれは失敗に終わった。このシリコーンシートが余っていてもったいない状態なのだが、1作目で用いた5mm厚のPoronシートの代わりにPCB上面に貼ったら打鍵音が柔らかくなるのではないかと考えたわけだ。ほぼプレートレスのキーボードではかなり消音効果が高かったので狙い通りの打鍵音にできるのではないかという期待のもと、2作目の製作を始めた。
PCB
最終的なPCBのデザインは下図のようになった。
この68キーは何回も製作しているので、基本的には以前作ったPCBのデザインを流用すればよい。これにプレートレスPCBガスケットマウント1作目と同様に10mm幅のガスケットタブを前後に4か所つける。
ただし今回はスタビライザーのフットプリントには穴の空いたものを使用した。これはスタビライザーテスト基板で予想外に静音効果があったもの。テスト基板では穴の形状がやっつけだったのでもう少しちゃんと四角い形状にした。
さらに下記の細かい点を変更。
- PCB上面には5mm厚のシリコーンシートをぴったり貼り付けたいので、表側の面には部品を配置しない。またUSBレセプタクルのついたドーターボードと接続するための線をはんだづけするところはスルーホールではなくパッドにした。
- PCBの外形はぎりぎり小さくしたが、スペースキーのスタビライザーの穴のために少しだけ出っ張る形にした。
- 右上のガスケットタブはUSBレセプタクルのついたドーターボードとの干渉を避けるために少し内側へ。右上のキーを押したときの沈みぐあいが少し心配だったが、特に問題にはならなかった。
- ダイオードが横向きになっていたほうがはんだ付けしやすかった気がしたので、全部横向きに変更。
しかしPCBを設計するたびに配線をいじってしまう。たいしてきれいになるわけでもないのに。配線が趣味なのかもしれない。
キースイッチ
スイッチはほぼプレートレスキーボード製作時に使おうとしていたGateron yellowのBottom black、Top MilkyにUHMWPEステムをいれたもの。このUHMWPEステムはInvryのv2。はじめステムが傾いていて使い物にならず酷評され、改善されたもの。改善されたものは問題なく使える。
UHMWPEステムは滑らかさだけでなく静音性も増す。なんでだろ?いずれにせよ1作目で不満だった打鍵感、打鍵音の改善が期待できる。
シリコーンシートをPCBに貼り付ける
シリコーンシートをPCBの上面に貼り付ける。スタビライザーをまずつけ、シリコーンにもくっつく両面テープをまずPCBに貼り付ける。スイッチの場所を避けて両面テープを貼らないといけないので、結構面倒くさい。
その後スイッチをはめて位置合わせをしながらシリコーンシートを貼付ける。さらにスイッチをはんだ付け。
ケースにインストール
以前作ったアクリル積層のケースを使用する。ケース側面は6つのパーツをほぞ組みし、積層しているのだが、一部のパーツをオレンジ色にしてみた。真っ黒だったケースにちょっとアクセント。PCBのガスケットタブには5mm厚のPoronフォームを両面テープで貼り付ける。
完成!
ケースを組みたてて、キーキャップをつけて完成。キーキャップはbiip MT3 Extended 2048をつけた。黒いケースは写真が難しい...。
打鍵音・打鍵感
シリコーンシートのおかげなのか、はたまたUHMWPEステムの効果なのかはわからないが、狙い通り1作目に比べて打鍵音がかなりマイルドになった。さらに整音のためにケース内にフォームを入れたりやチルトをつけている足の下にフォームを入れたりして打鍵音を比較した。
これまでと同様のセットアップで打鍵音を録音し、1分間のタイピング音を周波数解析した。下の図は各フォームの組み合わせの周波数スペクトルの比較。
ケースフォーム3mm厚を入れた場合はケース内PCB下の空間のほとんどを埋めた状態で、打鍵の柔らかさはそのまま維持されている。つまりフォームはそれほど圧縮されていない。この状態だとフォームによる打鍵音への影響は全然感じられない。実際周波数スペクトル(図の緑線と青線)にも差は見られない。
そこで2mm厚のフォームをさらにケース内に加えてみた。そうするとPCBとケース底面がぴっちりフォームで埋められてフォームが少し押し潰された状態になる。打鍵音の柔らかさは少し損なわれるが、打鍵音が明らかに変化する。これはわずかではあるが周波数スペクトル(case foamx2、赤線)にも変化が見て取れる。1kHzを超えた周波数帯ではどの測定もかなり一致しているので、低音部の違いは有意な違いとみて良さそう。
もう一つわかったのは木製の机に振動が伝わると低音が響くということ。もともとこのケース底面はアクリル積層でチルトをつけ、そこに1mm厚(?)のフォームを貼り付けている。ただ、これだとどうも低音の振動音が気になるので、手前側にはウレタンクッションをつけ、チルトをつけている足の下に5mm厚のPoronフォームを敷い打鍵音をチェックしてみた。
ウレタンクッションの効果はわからなかったが、5mm厚のPoronフォームにより明らかに低音が低減される(図の破線と実線の違い)。これは録音した打鍵音では全然わからないが、体感でははっきりとわかる。おそらくデスクマットなどを使っている場合には問題ないのだと想像するが、そうでない場合にはケース底面の足も打鍵音に大きな効果を与えるようだ。ケースフォームを2枚、チルト足にフォームを敷いた場合の打鍵音はこちら。
ちなみに1作目の打鍵音はこちら。
同じプレートレスPCBガスケットマウントでも全然違う打鍵音。録音した音だとちょっと違いがわかりづらいかもしれない。2作目は狙い通りかなり柔らかい打鍵音に仕上がった。
スタビライザーの打鍵音はテスト基板で試した通りかなり静か。ただし6.25uのスペースキーは大きいためか低い音が鳴る。まあ6.25uサイズを使っている限りはしょうがないかな。改善するなら分割して小さめのキーにすればよいはず。
ただ狙っていたよりも打鍵音がマイルドになりすぎて若干物足りない気もしなくもない。またGateron yellowのハウジングとUHMWPEステムの相性が良くないのか、スイッチのnorth側のタイプすると打鍵音がかさつく。そのためにどうも音色に雑味がある感じになる。スイッチがベストではない。いくつかスイッチ交換して比べてみようかな?
この記事ははプレートレスPCBガスケットマウント自作キーボードchex68で書きました。