自家昇華印刷
自作キーボードを始めるとキーキャップに好きな印字をという欲求が湧く。そうするとたどり着く解決方法の一つが自家昇華印刷。自分が参考にしたのは次の記事。
machinanette.com先人の知恵は偉大。これらを参考にすることで自分でも自家昇華印刷することができる。
これまで自分は転写紙にインクジェットプリンタで印刷し、それを家庭用アイロン(パナソニックNI-S55)で熱転写するというのをやっていたのだけれど、以下の点に不満があった。
- OEMプロファイルの側面などの平らな面への熱転写は結構きれいにできていたが、キーキャップ天面などの湾曲した面への転写がきれいにできない
- アイロンがでかい
- 熱転写中の固定ができず、ずっと押さえていないといけない
ずーっとそんな不満を抱えていたのだが、こんな記事に出会う。
重要なポイントは以下の2点。
- PTCヒーターの利用
- キーキャップの天面にフィットするシリコン
PTCヒーターは温度が高くなると抵抗値が高くなって電流が流れなくなるので勝手に温度が頭打ちになるというものみたい。この自己制御性のおかげで温度制御のコントローラーがいらず、回路が単純で済む。これを参考に自分で熱転写機を作ってみることにした。
自作熱転写機の製作
できるだけコンパクトにしたかったので、ペンチのような工具をイメージして片手で握れるサイズのハンドル型にすることした。ハンドルは安価で頑丈なアルミフレームを利用することにして、下記のようなものを考えた。
これを作るために以下の材料を調達した。モノタロウかAmazonでほとんど手に入る。
- PTCヒーター 220度 12V 5-28W
- PWMコントローラー DC 10-30V
- ACアダプタ 12V 3A
- アルミフレームSF30 200mmx2
- アルミ板 1x50x100mm x 2
- 固定用ボルト、ナットなど
- キーキャップを固定するための木材 (100均)
- キーキャップ天面の曲面のための型 (シリコンシート+耐熱接着剤)
- 耐熱テープ
- 料理用温度計
- 耐熱シリコンシート
- 木片(100均)
ヒーターはPWMコントローラーに接続することにした。出力を調整して温度調節できないかなという狙い。結果としてこれは必要だった(後述)。
最終的に出来上がった熱転写機はこれ。
ハンドル部分のアルミフレームはドリルで穴をあけたアルミ板2枚で挟むようにボルトで固定。下ハンドルは動かないようにして、上ハンドルのアルミフレームは側面の溝にキリ穴をあけてボルトを1本だけ通して回転するようにする。がっちり作るなら板はもう少し厚くてもいいけど、1mmでも問題なかった。
PTCヒーターと上ハンドルのアルミフレームの間には耐熱シリコンシートを複数重ねて断熱。(はじめ木でやっていたが、香ばしいにおいがしてきたのでシリコンシートに変更した。)
PTCヒーターのキーキャップ側は、へこんだ形のキーキャップ天面に一様に熱を伝えるために型を作った。これは耐熱接着剤(デイトナ バイク用 液状ガスケット シリコン/厚付け 10g 白)を耐熱シリコンシートでサンドイッチすることで作成。接着は転写するキーキャップを使ってこんな感じで行った。
キーキャップ底面側は、位置決めが簡単なように以下のような固定治具を作成。100均の小さい木製ピンチを分解して得られる木片を接着して、これでキーキャップの左右の位置を固定。(今思えば割りばしとかでもよかったかもしれない)
この固定具を下ハンドルのアルミフレームに耐熱テープで固定。キーキャップ上面に転写する場合には以下のようなセットアップとなる。
実際に転写する場合には、転写紙をキーキャップに耐熱テープで貼り付けたものを配置して行う。キーキャップ側面に転写する場合はべつの固定具に変更し、以下のように配置する。
熱転写テスト
自作熱転写機ができたらとりあえず転写テストを行うわけだが、最初はどうもうまくいかなかった。料理用の温度計で測定してわかったが、温度が低いのが原因だった。測定するのは重要ですね。
これまで自家昇華印刷に使用していた家庭用アイロン表面を測定してみると、温度は155-169度だった。この温度で熱転写がうまくできていたし、何なら若干溶けることもあったので、この程度の温度か少し低いくらいが望ましいことになる。
自作熱転写機のPWMコントローラーのつまみを調整して出力Maxにした場合、92度までしかいかない。この温度だとうっすらと転写することしかできず全然使い物にならない。
次にPWMコントローラーのつまみを調節して出力を絞ってやると、PTCヒーター表面で最大190度まで上がった。どうも出力を絞ったほうが温度が上がる。フィードバックの時定数を調整しているようなものなのだろうか。
190度だとPBTのキーキャップは溶けてしまう。上記のキーキャップ天面用の型(シリコンシートx2+接着剤)を装着すると、数分の余熱後、その表面の温度は140-150度になる。この温度で1.5分転写テストした結果がこちら。
温度はこれで良いことがわかった。そこまで強く押し付けなくてもきれいに転写できているので、やっぱり転写紙をぴったりとくっつけるのが肝要みたい。
ちなみに転写時間を長くするとぼやっと滲む。逆に短くしすぎるときちんと転写されない。ということで、このセットアップでは1.5分がちょうどよいという結論に至った。
これで歩留まり良く昇華印刷ができるようになった。黒を転写しているが、赤みがかってしまっている。これは転写紙に印刷するときの設定の問題であることが後でわかった。それについてはまたそのうち。
これでずーっと苦戦していたキーキャップ天面への自家昇華印刷がほとんど失敗することなくできるようになった。この自作熱転写機を使ったオリジナルな印字のキーキャップ製作については別の記事で。