自作キーボードの配列を考えるときの思考パターン

自作キーボードの最も魅力的な要素は配列を自由に決められること。今回は自作キーボードの配列を考えるときの私の思考パターンを書いてみます。

 

基本方針

配列を考えるときの基本方針を一言でいえばデファクトスタンダードから逸脱しないということ。これは自作キーボードの最大の魅力をつぶしているように聞こえるかもしれない。だけど世の中にあふれている標準的なキーボードに自分を合わせることができればそれが一番幸せ。

 

そう考えるのは次のような理由があるから。

  • 市販品からの移行したときの学習コストが少ない
  • 市販品を使わないといけなくなった時に戸惑わない
  • キーキャップの選択肢

最初の点と2点目は、要するに自作キーボードと市販キーボードをいつでも切り替えられるということ。カスタマイズされすぎた配列に慣れると、市販品を使用するときに上手く切り替えられなくてタイピングがスムーズにできなくなる。市販品キーボードの使用が強いられる場面は頻繁にあるわけではないが完全にゼロではなく、だいたいこういうときに限って早急な対応が求められる。そんな時には精神的にストレスがかかっているわけだが、タイピングできないことでさらなるストレスを感じたくない。世の中には配列が変わると切り替えられる人がいるみたいだけど、自分の脳はそれほど器用ではないようだ。

 

3点目のキーキャップの選択肢も無視できない。自分はもともと日本語配列のキーボードを長いこと使っていて、あるときに自作キーボードに足を踏み入れた。日本語配列の自作キーボードを作ってみるわけだが、キーキャップの選択肢がかなり狭まってしまうことに気づく。例えば数字列の記号の位置とか。印字と実際が異なるのは自分はとても気持ちが悪い。そういうこともあって自分はあるときから英語配列に転向した。自作キーボード用キーキャップのデファクトスタンダードに自分を合わせたおかげでキーキャップの選択肢が広がったわけである。

 

キーキャップに関して気にするべき点は日本語・英語配列の印字の違いだけではない。後でもう少し掘り下げてみる。

 

自分の標準的なキー配列(2022年3月現在)

以上のような考えのもとに、現在は次のような68キーの配列が自分のスタンダードになっている。

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よく使用する68キーのキーボード配列

ほぼすべての人は市販品のフルサイズのキーボードを最初に使い始める。自分はテンキー部分を全く使わないのでそこに埃が溜まっていくようになり、そのうえ手のひらサイズの机のスペースを無駄に占有している気がして不満を持つようになった。そういう理由から市販されているテンキーレスキーボードを長い間使用していた。その後自作キーボードの存在を知り、さらにキー数を減らして省スペース化したいと考えるようになった。

 

まず除きたくなるのはファンクションキーの行。ここを除去することができれば結構サイズを小さくできる。Windows使用時の当時の自分のファンクションキーの用途は

  • エクセルのセル編集、ファイル名の変更のためのF2
  • Windowを閉じるためのAlt+F4
  • リロードのF5
  • 日本語入力でひらがな・カタカナ・半角英数への変換でF6, F7, F10

くらいだった。最も使用頻度が高いのは日本語入力のF6-F10。ファンクションキーがなくなるのはだいぶ不便かなーと思っていたが、Ctrl+U, Ctrl+I, Ctrl+Tで代用できることを知り、これならストレスなく移行できると考えた。ファンクションキーは別レイヤーにしてFnと数字に割り当てると違和感なく使える。

 

もう一つ重要なのは全角/半角キー。60%や65%配列の自作・カスタムキーボードの場合、Escを全角/半角キーの位置(英語配列だと「‘」キー)に配置するのがよくあるパターン。当時は日本語配列のキーボードを使用していて、全角/半角キーで日本語・英語入力の切り替えを行っていたのでなくなってしまうと困る。何か処方箋はないものかと調べていると、WindowsではCaps Lockが同じ働きをすることを知る。どうせCaps Lockは使っていなかったので、全角/半角キーはCaps Lockで代用することにした(自作しているキーボードではAlt+`を割り当てている)。これなら市販品のキーボードを使っても同じようにタイピングできる。

 

また全然使わないInsertは除去したくなる。テンキーレス配列のここの6キーのかたまりのうち、HomeやEndはPage Up/Downと役割が似ているので、Insertの代わりにFnを配置してFn+Page UpにHomeを割り当てるなどして統合する。

 

この配列は、テンキーレスからファンクションの行を取ったものとほとんど同じであるので、慣れるのに時間がいらない。またキーキャップにもほとんど困らない。普通この配列だと右shiftは2.75u幅を使う場合が多いのだが、自作しているキーボードのケースの都合上1.75uを使っている。この点がちょっとだけ標準から逸脱するが、キーキャップセットを物色するときはここを注意していれば良い。1.75uにするとスタビライザーがいらなくなるので、スタビライザーのカチャカチャ音を無くすためのあのしんどい作業の量が減るのもいいポイント。

 

キー配列とキーキャップとの相性

キーキャップは自作キーボードの花形。これを交換するだけでも大きく印象が変わる。キー配列と同じくらい多くの人がこだわりたくなるポイントだろう。それゆえにキー配列と使用するキーキャップセットのマッチングが重要となる。

 

上で述べた印字の不一致は無刻印キーキャップを許容するのであれば全く問題にはならない。でもやっぱり自分は印字ありのキーキャップが好み。キーボードの見た目はキーキャップ自身の色だけでなく、印字の色との組み合わせやフォントでもだいぶ変わる。無刻印一択になってしまうのはやっぱりもったいない。印字とキーマップと一致させたくなると、その縛りを受けてキー配列を考える必要がある。

 

キーキャップとのマッチングでもう一つ悩ましいのはRowを一致させること。最もポピュラーなCherryプロファイルをはじめとして、Rowによってキーの高さが変わるキーキャップセットが多数ある。これを無視したキー配列にすると上面の高さの規則性がなくなって不格好になってしまう。XDAやDSAなどの高さが揃ったプロファイルでは気にする必要はないのだが、困ったことに自分の好みはSAのように背が高くてRowで高さが異なるプロファイル。Rowで高さが違うほうがタイピングしやすい気がするのと、背が低いと自分の好みではないカチャカチャとした打鍵音になる傾向がある気がしているから。そういうプロファイルを用いる場合は印字の一致だけでなく、Rowの一致という点も考慮したくなる。

 

40%サイズのキーボードを作ってみると標準的でない配列で印字・Rowを一致させるのことの辛さがよくわかる。以前40%サイズのキーボードを自作したが、キーキャップがやはり難しかった。特にQの行の幅が広いキーはTabや\の1.5uくらいしかないキーキャップセットが多いので、これ以外の幅にしてしまうと印字を無視したとしてもRowがマッチしなくなることが起こる。40%好きの人はキーキャップが大変だなーと思う。

 

そういう点ではMT3 Extended 2048のキーキャップセットはかなり使い勝手がいい。このセットはかなり痒いところに手が届く感があって、Alphasに加えてModifiersとNomadを買っておくとたいていのキーボードには対応できる気がする。また、Modiferの印字もシンボルなので、多少印字の不一致があっても(自分は)それほど気にならない。いまだにどういう意味かかわからん記号もあるし。色も白でいろんなキーボードに合わせやすいので、1式持っておくと便利。

 

それにしてもキーキャップセットによって、Row1が奥側がだったり手前側だったりする。とっても紛らわしいので全てのメーカーで統一してほしい。

 

印字とRowの一致にこだわりはじめると、やっぱりキーキャップを自作したくなる。手っ取り早いのは3Dプリントだろう。ただし印字されているものは見たことがない気がする。Artisanキーキャップで用いられるレジンの方法で思い通りのキーキャップセットができるかもしれない。あるいはPBT製のブランクキーキャップに自家昇華印刷すると印字を自分の思い通りにできる。どれも大変手間のかかる茨の道ではあるけれど...。

 

自分はSAやSA-Pプロファイルが好みなので、そのプロファイルのPBT製のブランクキーキャップセットがあったらなと思う。そうすれば自作した自家昇華印刷用の熱転写機で自由に印字できる。実はSignature Plastics製のSA-Pプロファイルのキーキャップはここで印字なしを購入できるのだけれど、これは自家昇華印刷するには高級すぎるなぁ…。

 

スペースキー

スペースキーは標準的には6.25uのものが使われることが多いと思う。このサイズの大きいキーはキーボードの見た目をキーボードらしくさせている要素だと思う。

 

一方、長いスペースキーを用いるとスタビライザーが必要となるので打鍵音の制御が難しい。最近自作したキーボードでは、PCBに穴を空けてスタビライザーの底打ち音を低減させたりしてみたが、キーが大きいことから来る低い音はどうしても残ってしまう。結果として他のキーとの打鍵音とは全く異なり、タイピングテストなどを行うとスペースキーの打鍵音が目立ってしまう。これはタイピング音のアクセントと捉えることもできるが、一方で不均一な打鍵音という欠点とみなすこともできる。自分はどちらかというと後者の印象が強い。

 

スペースキーの打鍵音を目立たせないようにするなら2-3uくらいのサイズ、あるいはスタビライザー不要のもっと幅の狭いキーに分割にするのが良い。キーの大きさが小さくなれば、打鍵音が軽い印象になって1uのキーに近づく。ただしスペースキーを分割すると、見た目のキーボード感が薄れる感じが自分はしてしまう(40%サイズのMiniVanとかはそんな印象はないのだけれど何でだろう?)。なので見た目を優先して長い6.25uのスペースにするか、打鍵音を優先して分割するか、という選択に毎回悩んでしまう。

 

キーキャップの揃えやすさという点では長いスペースキーを使うのが安全だろう。ほとんどのキーキャップセットは6.25uのキーがあるので悩まなくて済む。これに対して分割する場合には、使いたいキーキャップセットで対応できるかどうかをよくよく確認しないといけない。自分は印字を気にするので、余っているShiftキーとかで代用するのは少し抵抗感がある。またスペースキーは親指で打鍵することになるので、かまぼこのような形のConvexのキーキャップにしたくなるが、そうするためにはキーキャップセットのスペースバーセットをわざわざ選んで購入しないといけなかったりする。

 

スペースキーついてはどのようにするのが自分のエンドゲームなのかはまだ答えは出ていない。

 

おわりに

今回は私がキーボードを自作するときのキー配列の考え方と、普段使用しているキー配列について書きました。ここで紹介した68キーの配列は最小限の構成で全く使わないキーがないので、まさに自分にとってのエンドゲームキー配列と言えます。(この記述はより良い配列を見つけるためのフラグかもしれない。)

 

自分は実用性を最も重視しているので、上のような配列にたどり着きましたが、キーボード自作で自由に配列をレイアウトできるとなると、分割型や自分の手にあった形のエルゴノミックなキーボードをつくりたくなります。今は、自分が未体験の分割型キーボードを自作しようかなとあれこれ考えています。そのことについてもそのうち記事にするかもしれません。

 

この記事はプレートレスPCBガスケットマウントの自作キーボードchex68で書きました。

次に自作するキーボードについてあれこれ考える

今回の記事は、次にどんなキーボードを自作しようかなーと、妄想していることをダラダラ書いているだけです。

 

自宅デスク用の68キーのキーボード

打鍵音のエンドゲームを目指してプレートレスPCBガスケットマウントのキーボードを2台自作した。1作目は打鍵音の主張が強いほぼ60%サイズ(記事はこれ)、2作目はそれに比べて控えめ打鍵音で普段使いにちょうどいい68キー(記事はこれ)。同じマウント方法ながら打鍵音がかなり異なり、どちらも気に入っている。気分によって切り替えて使いたい。

 

ただ、1作目のキー配列はdeleteがデフォルトレイヤーになかったり、キーキャップを揃えるのが難しかったりと不便なところがある。2作目の68キーの配列ではそういう不満がないので、2作目の余っているPCBを使ってもう一台組みたい欲求が出てきた。

 

すでにある基板を入れるケースを新しく作ればいいわけだが、

  • ガスケットマウントなどの、ケースとPCBの間にフォームなどを挟んで振動が伝わりにくい構造にする。
  • アクリルではない素材でケースを作りたい。
  • これまで作ったことのないような構造のケースに挑戦したい。

の要素を取り入れたい。

 

プレートレスPCBガスケットマウントキーボードを作るまでは静音性を求めてケースの設計・製作を行っていた。以前に質感を求めて木製の板をケース天板に使用したことがあったが、ガスケットをその板に当てていたせいもあってか結構音が響く。この体験がもとで静音性を求めていた時には木の素材は避けていた。ただし打鍵音はある程度鳴ってもよいことを許容すると木材でケースを作ることも視野に入ってくる。

 

木材は加工しやすいので、せっかく作るなら板材の組み合わせではできないような立体的なデザインを作ってみたい。ケースを木の削り出しで作れたら面白そう。何なら手で加工することもできるし。(そうなるともはや木彫りの熊のような工芸品。)音が響きそうだけど、ケース内に金属板を貼って遮音性を高めると、ある程度抑えられそうな気もする。

 

また以前作ったケースに使用した木の板はWATCOオイルで仕上げたが、次に木を使うなら蜜蝋ワックスを使ってみたい。

 

持ち運び用コンパクトキーボード

外でタブレットに無線キーボードをつないで作業することがある。この時にはMOBO Keyboardを使っているのだが、スペースキーの位置がどうしてもつらい。位置がもう少し右寄りだったら、コンパクトだし筐体もしっかりしていて完璧なのだけれど…。

 

こういう不満があると自作したくなってしまう。自作することを妄想すると以下の仕様を満たしたくなる。

  • 無線必須。BLE Micro Proを使うのかな。どうせならnRF52840をキーボード基板に直載せしたいけど、ちょっと自分ではできる気がしない。
  • 持ち運び用はできるだけ薄くしたいので、Kailh ChocもしくはXスイッチを使いたい。保護のために折り畳みor蓋つきケースかな?
  • 狭ピッチにして大きさもコンパクトにしたい。でもキーキャップが無いかもしれない。自作するのかな?

狭ピッチは結構重要かもしれない。仕事で長い間使用していたノートパソコンは狭ピッチだったが、最近標準的な19mmピッチのものに変わった。指を広げてタイプしている感じがしてどうも違和感がある。上面がフラットなキーボード=狭ピッチであると脳が勝手に認識しているのかもしれない。

 

うーん、でもこれらをすべて実現しようとするとだいぶハードルが高いなぁ。

 

分割キーボード

日本での自作キーボードと言えば分割型といっても過言ではないほどいろんなものがある。自分が自作キーボード沼に足を踏み入れてからだいぶ時が過ぎているが、分割型はまだ使ったことがない。自宅のデスクに置くキーボードは有線が良いのだが、分離した左右をつなぐケーブルにはちょっと抵抗があるからだ。頻繁にキーボードの位置を変えることがあるからケーブルが多いとひっかけたりしそうだし、ケーブルの数は最小限にして机の上をスッキリさせたい。まあでもこれは先入観によるもので食わず嫌いかも。使い始めたら気にならないかもしれない。

 

自作するとこを妄想すると次のことが頭に浮かぶ。

  • やっぱりrow staggeredが良いかな
  • Bキーは左右両方にあってほしい。あるいは左で打てるように矯正するという考え方もあるか?
  • 数字列の代わりにテンキーとかにしてもいいかもしれない。でもその場合記号はどうするか…
  • 左手側にDeleteとEnterがあるとエクセルやKiCadの作業で便利かもしれない

自作キーボードキットを試しに1台作ってみようかな?

 

格子(ortholinear)配列

これもまだ手を付けたことがない。市販されている標準的なキー配列と異なるものに慣れてしまうと、いざ市販のキーボードでタイプしないといけないとき全然打てなくてすごいストレスを感じそう。だいたいそういう時は素早い対応を要求される場面だったりするし。そういう理由から市販品とは異なる配列は避けてしまう。格子配列はとっても興味があるけれど、以前自作した40%キーボードと同じように、ほとんど使わないでむしろ収納スペースを圧迫するだけになりそう…。

 

カスタムキーボード

これも結局まだ1台も購入したことがない。1台くらいは完成度の高い高級キーボードを手にしたい気持ちがある。ただ自分が欲しいのはikki68のような形だがこのキー配列のカスタムキーボードは全然見ない。まあそのおかげで出費を抑えられているのかもしれない。

 

うーん、もともと悪い姿勢が最近さらに悪くなっている気がしているから分割キーボードを作ってみようかな?とりあえずRemapのカタログで分割キーボードを眺めてみるかー。

 

この記事はプレートレスPCBガスケットマウントの自作キーボードchex68で書きました。

プレートレスPCBガスケットマウントの自作キーボード2作目

前回自作したプレートレスPCBガスケットマウントキーボードの打鍵音がかなり自分のエンドゲームに近い気がしていたので、いくつかの不満点を解消すべく2作目を製作しました。今回はそれについての記事です。

 

1作目の改善したい点

2021年の終わりにプレートレスPCBガスケットマウントのキーボードを自作した(記事のシリーズはここ)。打鍵音に興味を持って作った試験的なキーボードで、

  • プレートレスPCBガスケットマウント
  • 5mm厚のPoronフォームの吸音材
  • ケースをアクリル箱組
  • アクリルレーザーカットでガスケット受けを作って接着
  • ほぼ60%キーボード(ケースサイズは65%)

という特徴がある。結果的には打鍵音がかなり気に入り、これを作ってからはこのキーボードばかりを使用していた。試しに作った割に出来が良いのだが、しばらく使っていると不満が出てくるのが人間というもの。それらは以下の点。

  • Delキーは単独が良い
  • PageUpなどはModifierと矢印の組み合わせだが、少し煩わしいのでこれも単独キーが良い
  • Gateron pro yellow milky topは安い割に良いスイッチだが、やっぱりカサカサ感が気になるので滑らかなリニアスイッチが良い
  • 打鍵音はかなり好みだが、底打ち音がやや硬くてうるさい。もう少し控えめで柔らかい音にしたい。

これらの不満を解消したいというのがきっかけだが、これを行うのにちょうどいい素材があったことがトリガーとなった。以前5mm厚のシリコーンシートを用いてほぼプレートレスのキーボードの製作にトライしたが、残念ながらこれは失敗に終わった。このシリコーンシートが余っていてもったいない状態なのだが、1作目で用いた5mm厚のPoronシートの代わりにPCB上面に貼ったら打鍵音が柔らかくなるのではないかと考えたわけだ。ほぼプレートレスのキーボードではかなり消音効果が高かったので狙い通りの打鍵音にできるのではないかという期待のもと、2作目の製作を始めた。

 

PCB

最終的なPCBのデザインは下図のようになった。

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PCBのデザイン

この68キーは何回も製作しているので、基本的には以前作ったPCBのデザインを流用すればよい。これにプレートレスPCBガスケットマウント1作目と同様に10mm幅のガスケットタブを前後に4か所つける。

 

ただし今回はスタビライザーのフットプリントには穴の空いたものを使用した。これはスタビライザーテスト基板で予想外に静音効果があったもの。テスト基板では穴の形状がやっつけだったのでもう少しちゃんと四角い形状にした。

 

さらに下記の細かい点を変更。

  • PCB上面には5mm厚のシリコーンシートをぴったり貼り付けたいので、表側の面には部品を配置しない。またUSBレセプタクルのついたドーターボードと接続するための線をはんだづけするところはスルーホールではなくパッドにした。
  • PCBの外形はぎりぎり小さくしたが、スペースキーのスタビライザーの穴のために少しだけ出っ張る形にした。
  • 右上のガスケットタブはUSBレセプタクルのついたドーターボードとの干渉を避けるために少し内側へ。右上のキーを押したときの沈みぐあいが少し心配だったが、特に問題にはならなかった。
  • ダイオードが横向きになっていたほうがはんだ付けしやすかった気がしたので、全部横向きに変更。

しかしPCBを設計するたびに配線をいじってしまう。たいしてきれいになるわけでもないのに。配線が趣味なのかもしれない。

 

キースイッチ

スイッチはほぼプレートレスキーボード製作時に使おうとしていたGateron yellowのBottom black、Top MilkyにUHMWPEステムをいれたもの。このUHMWPEステムはInvryのv2。はじめステムが傾いていて使い物にならず酷評され、改善されたもの。改善されたものは問題なく使える。

 

UHMWPEステムは滑らかさだけでなく静音性も増す。なんでだろ?いずれにせよ1作目で不満だった打鍵感、打鍵音の改善が期待できる。

シリコーンシートをPCBに貼り付ける

シリコーンシートをPCBの上面に貼り付ける。スタビライザーをまずつけ、シリコーンにもくっつく両面テープをまずPCBに貼り付ける。スイッチの場所を避けて両面テープを貼らないといけないので、結構面倒くさい。

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シリコーンシートをPCBに貼り付けるために両面テープをつけたところ

その後スイッチをはめて位置合わせをしながらシリコーンシートを貼付ける。さらにスイッチをはんだ付け。

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PCBにシリコーンシートを貼って、スイッチをはんだ付けした状態

 

ケースにインストール

以前作ったアクリル積層のケースを使用する。ケース側面は6つのパーツをほぞ組みし、積層しているのだが、一部のパーツをオレンジ色にしてみた。真っ黒だったケースにちょっとアクセント。PCBのガスケットタブには5mm厚のPoronフォームを両面テープで貼り付ける。

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アクリル積層ケースの一部の色を変えた

 

完成!

ケースを組みたてて、キーキャップをつけて完成。キーキャップはbiip MT3 Extended 2048をつけた。黒いケースは写真が難しい...。

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キーキャップをつけて完成!

 

打鍵音・打鍵感

シリコーンシートのおかげなのか、はたまたUHMWPEステムの効果なのかはわからないが、狙い通り1作目に比べて打鍵音がかなりマイルドになった。さらに整音のためにケース内にフォームを入れたりやチルトをつけている足の下にフォームを入れたりして打鍵音を比較した。

 

これまでと同様のセットアップで打鍵音を録音し、1分間のタイピング音を周波数解析した。下の図は各フォームの組み合わせの周波数スペクトルの比較。

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タイピング音の周波数スペクトルの比較

ケースフォーム3mm厚を入れた場合はケース内PCB下の空間のほとんどを埋めた状態で、打鍵の柔らかさはそのまま維持されている。つまりフォームはそれほど圧縮されていない。この状態だとフォームによる打鍵音への影響は全然感じられない。実際周波数スペクトル(図の緑線と青線)にも差は見られない。

 

そこで2mm厚のフォームをさらにケース内に加えてみた。そうするとPCBとケース底面がぴっちりフォームで埋められてフォームが少し押し潰された状態になる。打鍵音の柔らかさは少し損なわれるが、打鍵音が明らかに変化する。これはわずかではあるが周波数スペクトル(case foamx2、赤線)にも変化が見て取れる。1kHzを超えた周波数帯ではどの測定もかなり一致しているので、低音部の違いは有意な違いとみて良さそう。

 

もう一つわかったのは木製の机に振動が伝わると低音が響くということ。もともとこのケース底面はアクリル積層でチルトをつけ、そこに1mm厚(?)のフォームを貼り付けている。ただ、これだとどうも低音の振動音が気になるので、手前側にはウレタンクッションをつけ、チルトをつけている足の下に5mm厚のPoronフォームを敷い打鍵音をチェックしてみた。

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(左)ケース底面、(右)チルト部の下に5mm厚のPotonフォームを敷く

 

ウレタンクッションの効果はわからなかったが、5mm厚のPoronフォームにより明らかに低音が低減される(図の破線と実線の違い)。これは録音した打鍵音では全然わからないが、体感でははっきりとわかる。おそらくデスクマットなどを使っている場合には問題ないのだと想像するが、そうでない場合にはケース底面の足も打鍵音に大きな効果を与えるようだ。ケースフォームを2枚、チルト足にフォームを敷いた場合の打鍵音はこちら。

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ちなみに1作目の打鍵音はこちら。

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同じプレートレスPCBガスケットマウントでも全然違う打鍵音。録音した音だとちょっと違いがわかりづらいかもしれない。2作目は狙い通りかなり柔らかい打鍵音に仕上がった。

 

スタビライザーの打鍵音はテスト基板で試した通りかなり静か。ただし6.25uのスペースキーは大きいためか低い音が鳴る。まあ6.25uサイズを使っている限りはしょうがないかな。改善するなら分割して小さめのキーにすればよいはず。

 

ただ狙っていたよりも打鍵音がマイルドになりすぎて若干物足りない気もしなくもない。またGateron yellowのハウジングとUHMWPEステムの相性が良くないのか、スイッチのnorth側のタイプすると打鍵音がかさつく。そのためにどうも音色に雑味がある感じになる。スイッチがベストではない。いくつかスイッチ交換して比べてみようかな?

 

この記事ははプレートレスPCBガスケットマウント自作キーボードchex68で書きました。

これまで自作したキーボードの打鍵音を録音して比較した

感度の良いマイクを購入したので、これまで製作したいくつかの自作キーボードの打鍵音を録音しました。今回はそのことについて。

概要

これまで自作した4つのキーボードの打鍵音を録音して比較した。この記事と同じセットアップで1分間の打鍵音を録音。ややゆっくりしたペースで打鍵したほうが音を堪能できる気がしているので60WPM程度の速度で打鍵した。動画に編集するときに音声のゲインを10dB上げた。

 

それぞれのキーボードの打鍵音と特徴を作成順に下に記載しています。キースイッチやキーキャップ、プレート素材などの情報はYouTubeの動画説明欄をご参照ください。

 

初めて作ったガスケットマウントキーボード(chex68v3)

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初めてガスケットマウントを採用した自作キーボード。ケースはステンレス3mmで底板、側面はアルミで構成。側面は固定用のねじがいっぱいで見た目がいまいちだけど、リストレストを置くのでそこまでは気にならない。上面は見た目と手触りを意識してMDFの木材を使用し、Watcoオイルで仕上げた。

 

スイッチプレートのガスケットタブを受ける部分はアクリルで作成して側面、底面に固定。ガスケットタブ上側は上面のMDF材の板で押さえている。

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ケース内部の構造

これ以前に自作したキーボードはスイッチプレートむき出しのデザインだったが、ガスケットマウントにしてスイッチプレートをケース内に収めるようにしたのでだいぶ打鍵音のやかましさが低減した。ただしガスケット上面側はMDF材の板で押さえているために静音性はそこまで高くない。

 

アクリル箱組ケースの40%キーボード(haze46)

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初めて作った40%サイズの自作キーボード。詳細はこの記事。ただしケース内のパテは除いた状態。初めて挑戦したアクリル箱組のケースがきれいに作れたし、キーキャップへの自家昇華印刷もきれいにできて、自分にとってはいろいろ学びの多かった自作キーボード。

 

打鍵音は可もなく不可もなくという印象。キーキャップは背の低いDSAプロファイルであるためか音が高め。

 

ステンレスで遮音性を高めたガスケットマウントキーボード(chex68v5)

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遮音性と見た目の質感に重点を置いて作った自作キーボード。ケース概要は以下の通り。

  • 銅プレートのガスケットマウント
  • ケースの上面、底面は3mm厚のステンレス
  • ケース側面はアクリル5mm厚x3の積層
  • プレートとPCB、PCBとケース底面の間に3mm厚のPoronシート

ケース上面の3mm厚ステンレスは遮音性を高める狙いがある。また、ガスケット部分は側面のアクリル積層部に実装しており、ケース上面のステンレス板には触れないようにしている(下図)。これで上面のステンレス板に音が伝わりにくいようにしているつもり。

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(左)ガスケット部断面、(右)上面図(ステンレス板を非表示)

 

これまで作った自作キーボードの中で最も音が静か。市販の静音キーボードと比べても静音性は優れていると思う。音色も繊細で上品な印象。作った当時は打鍵音がEndgameに達したと思っていた。


※これまでのブログ記事ではこのキーボードをchex71と表記していましたが、キー数を反映させてchex68としました。71は最初71キーの日本語配列で作っていたことが由来。キーキャップの選択肢がないので、ある時から英語配列の68キーになりました。

 

プレートレスPCBガスケットマウントキーボード(relief64)

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Equinox XLやTheta75に触発されて自作したスイッチプレートのないPCBガスケットマウントのキーボード。詳細はこちらの記事

 

打鍵音は一番のお気に入り。音の大きさはおとなしくはないが、好みのコトコトとした音に近い。Gateron pro yellowは若干カサカサした打鍵感・打鍵音があるが、カサカサの打鍵音はASMR的でプラスに働いているのかもしれない。この打鍵音の心地良さのために最近はこればっかり使っている。

 

周波数スペクトルの比較

せっかくのなので、これまでやっていた打鍵音の周波数スペクトルの比較もしてみた。以前使用していたマイクの録音(点線)だと8kHzくらいから急激に落ちていて、高音への感度がないことを表している。ただし新たに導入したDR-07Xも10-20kHzあたりからどれも急激に落ちている。まあ可聴域は20kHzと言われているからそんなに問題にはならないのかもしれない。

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タイピング音の周波数スペクトル

この3つの中ではrelief64の打鍵音が一番好みだが、これは5kHzを超える高い周波数帯が抑えられているのがポイントではないかと思う。以前周波数解析したときにローパスフィルターで数kHzの周波数帯を低減させたときの音が好みだったが、これと音が似ている。ただし打鍵音は静かではなく結構やかましいので使う場所を選ぶかも。もう少し底打ちの音を柔らかくしたいところ。

 

一方でchex68v3とrelief64は2kHzより高い周波数帯ではだいたい似たようなスぺクトルの形をしているとみることができる。でも実際の音はだいぶ違うと思う。周波数スペクトルを見ても打鍵音はやっぱり想像できない…。時間変化も見ないと違いは見えてこないということだろうか。

 

打鍵音が一番静かなのはchex68v5。銅のプレートのためか打鍵音が硬い印象があるが、割と静かなので音の印象は上品な感じがする。この音の硬さは、10kHzのピークに対応しているのだろうか?

 

あとがき

いやー、録音した音で直感的に打鍵音を比較できるっていいですね。しかしガスケットマウントでもケースによって打鍵音が全く違うのは面白い。relief64の打鍵音はいいけれど、やっぱりカサカサした感触や音が少し気になる。感触はより滑らかで、打鍵音はもう少し控えめで似たような音色にしたい。うーん、でもこのカサカサ音が好みの音色なのか?自分の好みがわからなくなってきた…。

 

この記事はプレートレスPCBガスケットマウントの自作キーボードrelief64で書きました。

 

スタビライザーの打鍵音テスト

自作キーボードの最近の発展は目覚ましいものがある。スイッチやプレート素材、ケースのマウント方法などバリエーションが実に多彩だ。一方であまり種類がないのがスタビライザー。何も手を加えないと必ずカチャカチャと鳴るわりに、選択肢はそれほど多くない。今回はそんなスタビライザーの打鍵音についての記事です。

自分の定番スタビライザーMod

最近の自分の定番はスクリューインタイプのDROCKのV2のスタビライザーとなっている。ただしそのままではやはり打鍵音がうるさく感じるので、PCBにKBDfans Stabilizers foam sticker (20Pcs) – 遊舎工房を貼り付け、さらに以下のModを施す。

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これでカチャカチャ音はしなくなり、安っぽい音からは一応解放される。ただしキースイッチの打鍵音が静かな場合には、アルファベットキーの打鍵音に比べてスタビライザーのついているキー、特に6.25uのスペースキーはどうしても打鍵音が目立ってしまう。そのためにタイピング時の打鍵音のバランスがいまいちだなーと感じていた(打鍵音のアクセントになっているという考え方もあるけど)。何とかしたいのだが、いまだに解決策はわからない。

 

スタビライザー打鍵音のテスト用基板

昨年作ったPCBガスケットマウントの打鍵音がだいぶ気に入ったので、普段使いの68キーの配列で基板を作ろうとしている。以前作ったPCBのスイッチのフットプリントを変えてにタブつけるだけでできるのだが、ただ作るだけなのは面白くないので新しい要素を取り入れたいなと考えていた。そんな時にこの記事のことを思い出す。

 

shirogane-lab.com

ビリヤードトラックボール、射出成型、自作キーボード専門店実店舗などたくさん目を引くところがあるのだけれど、自分が気になったのはPCBのスタビライザーのところに穴が空いている部分。これがどういう意図なのかはわからないが、穴空いていると打鍵どうなるんだろうか、という疑問がわく。打鍵音は体感しないとわからないので自分で基板を作って試してみることにした。いきなり本番の68キー用のPCBに取り入れるのはちょっと不安だったので、テスト基板を作って試してみることにした。基板は100mm x 100mmだとお安く製作できるので、6.25uはおさまらないが、8パターンの2uスタビライザーのフットプリントを試してみることにした。下の図が実際に作った基板。

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スタビライザーテスト基板

左上がスタンダードなもので、それに対してtest1-8はステムがあたる部分に穴を空けた。特にtest2はかなり攻めたもので、底打ち時はステムがすっぽり穴に入るので基板に当たらない。test9,10はスタビライザーのハウジングの周りに縦のカットを入れたもの。KiCadのフットプリントエディタで作ったが、エディタでは丸穴か長穴しか使えないみたいなので、長穴を複数組み合わせて穴を空けた。基板は1.6mm厚にし、JLCPCBに発注した。これ送料込みで千円かからない。これでビジネスが成立するのは本当にすごい。

 

打鍵音を比較

基板が届いたらさっそくテストしてみる。余っているスタビライザーが沢山ないのだが、1個だと打鍵・つけかえ・打鍵となって記憶した音と比較しないといけないので、2個をテスト基板につけて打鍵音を比較する。使用したのはDUROCK V2ですでに上に述べたHolee Modを施したもの。

 

はじめ基板にゴム足をつけて机の上に置いて試してみたが、基板が歪んでいて4つの足の1つが浮いてしまうのと、木製の机の振動音が目立ってしまう。そこでPoronフォーム3mm厚の上に置いて打鍵した音を調べた。使ったスイッチはGateron yellow 乳白色トップ、黒ボトムをKrytox GPL205g0でルブしたもの。8種類のフットプリントに加えて、最近よく利用するKBDfans stabilizers foam stickerを標準的なフットプリントに貼り付けた場合の音との比較も行った。

 

打鍵音を耳で聴いた印象は以下の通り。

  • スタンダードなものはスタビライザーのステムの底打ちの音が響く。
  • test2はスタビライザーステムの底打ち音がなくてだいぶ静かになる。
  • 他はスタンダードなものと大きな違いはないが、音の高低の違いはある気がする。
  • test2とスタビライザーフォームは同じ程度に静かになる。test2はキースイッチの底打ちが、フォームはスタビライザー側の底打ち音で決まっている気がする。底打ちの静かさはtest2がやや優れているか。

test2は使い物にならないのではないかと予想していたが、変なブレなどないし特に問題ない。まあブレはワイヤーで制御されているので当たり前と言えば当たり前か。音が静かな原因は底打ち時にステムがPCBに当たらないおかげ。

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テスト基板の裏面。test2にスタビライザーがついている。

 

ただし、実はそれだけではなくスタビライザーのワイヤーがステムを強くヒットしないことも原因であると思う。キーキャップをtest2の時に特に意識せずに嵌めると、スタビライザーのステムの十字部分はキーキャップの奥までささらないで半挿し状態になる。

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スタビライザーのステムを半挿しにした場合と奥まで挿し込んだ場合

 

この状態だと底打ち時の打鍵音は小さく静か。一方、PCB底面の穴からスタビライザーステムを押し込んで十字の部分をしっかり奥までキーキャップにはめ込むと、底打ち時の打鍵音が大きくなる。これは下の写真で示しているステム内底面にワイヤーがあたるせいではないかと思う。

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ステムをキーキャップの奥まで挿入し、キーを底打ちした状態。赤い四角の部分がおそらく当たる

 

記録のために最近導入したマイクで打鍵音を録音した。やってみてわかったが、打鍵の強さによって音の大小がかなり変わる。微妙な打鍵音の大小はこれから判断するのは難しい。1つずつ録音すると、音の違いが打鍵の強さのせいかどうかが判断できないので、1回の録音で2つのキーを交互に打鍵して録音した。これなら2つの打鍵の強さは大きくは変わらないはず。

www.youtube.com

しかしこの動画、マニアックすぎる…

まとめ

基板に穴をぱっくりあけるとかなりスタビライザーの底打ち音を低減できることがわかった。これは市販されているものでもドリルで穴を空けてやすりがけするなどすれば同じことができる。(ただしそこに配線がある場合はできないけれど…。)

 

この穴を空ける方法では、キースイッチで底打ちの打鍵音が決まっている気がするので、静音スイッチを使用するとかなり底打ちが静かになるのではないかと思う。

 

ステムを半挿ししているだけだと再現性が不安なので、キーキャップとの間に1.5mm厚くらいの何かを挟みたいところ。あるいはステム内側の底面にもバンドエイドを貼るといいのかもしれない。いずれにせよtest2のように穴がぱっくり空いたフットプリントを次に作る基板に取り入れてみようかな。

 

この記事はプレートレスPCBガスケットマウント自作キーボードrelief64で書きました。

キーボード打鍵音録音用マイクを導入した

キーボードのこだわりポイントの一つ、打鍵音。これを追求していくと打鍵音を録音しておいてスイッチ、キーキャップ、ケースフォーム等を変更したときにどのように変化するのかを比較したくなります。その欲求を満たすために新しくマイクを導入しました。今回はそのことについて。

きっかけ

配列、打鍵感、キーキャップが自作キーボードのメインのこだわりポイントだと思う。これらについては自作したキーボードがそれなりに満足のいく水準に達している。そうすると次に気になりはじめるポイントは打鍵音。

 

打鍵音で最も重要な要素はキースイッチ。これを変えてどのように打鍵音が変化するかは、ソケット式(いわゆるホットスワップ)であれば容易に比較することができる。

 

困るのはそれ以外の要素を調べるときだ。例えばケース内のフォームのあるなしで打鍵音を比較したい場合は、記録する術がなければ耳で聴いた音を記憶しておき、キーボードを分解してフォームを入れて組み立て、打鍵して音を比較する。しかし分解・組立で結構時間がかかるので、結局記憶している音との比較になる。人間の記憶ほどあてにならないものはないので、これでは客観的な比較は全くできない。

 

どうにかしたいなーと考え、これまでは(安価な)マイクで録音した打鍵音の周波数スペクトルを比較して変化を調べていた(例えばこの記事)。この方法では客観的に打鍵音を評価できるのだが、問題だったのは、

  • 周波数スペクトルを見ても音が全く想像できない。
  • 録音した音を聴くと、高音が拾えていないせいか籠ったような音なっている。実際の打鍵音とは全く違う。

ということ。なのでいいマイクがずっと欲しかったのだが、お高いマイク買ってもどうせキーボード打鍵音しかとらないしなー、と思って自制していた。

 

ただ、2021年に作ったプレートレスPCBガスケットマウントの自作キーボードの打鍵音がかなり心地よくてエンドゲームまであと一歩だと考えていること、年が明けて何か新しいことがやりたくなったこと、そして打鍵音に聴き惚れた動画(後述)に出会ったことが決定打となり、ちゃんとしたマイクを導入することにした。

 

どのマイクを導入するのか?

さて、打鍵音を録音するのに適したマイクは何だろうか?とりあえずYouTubeのタイピング動画をいろいろ見てみる。詳細欄に使用機材をちゃんと書いてくれている動画がちらほらあり、マイクについて調べてみると

等が使われているようだ。そんな中、心を奪われた印象的な動画に出会う。

 
このタイピング動画は30台ものキーボードの打鍵音をASMR的なコンテンツにしている。これだけの数を(おそらく)同じセットアップ(同じマイク、設置場所)で録音しているので良い比較になっている。またステレオ音声で左右の音の立体感があるので聴いていてとても心地いい。もう5回以上は再生している…。最も重要だと思った点は打鍵時のスイッチのカサカサ音までしっかり聴こえて音の広がりを感じられること。これは高音をちゃんと拾えているということだと思う。
 
完全にこの動画の打鍵音がツボにはまり、同じマイクを買うことに即決。調べてみるとTASCAM DR-07Xというものを使っているみたい。これはASMR用でおすすめされているレコーダー。もともとウィスパーボイスのボーカルやASMR好きだったこともあり、自分がこのマイクを選ぶのは必然だったかもしれない。
 

録音セットアップ

購入したマイクが届いたので試しに録音してみる。セットアップは下記のような配置。

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打鍵音録音時のセットアップ

タイピングは主にアルファベットキーなので、左右のほぼ中心となっているGキーの正面にマイクを設置する。

 

打鍵対象は10FastFingers.comのタイピングテスト。これを1分間録音する。普通にやると平均で90WPMくらいのスピードが出るが、なんかこれくらいのタイピング速度だとせわしい感じがしたので、advancedのほうでゆっくり目でタイプした。だいたい60WPM前後のタイピング速度。これくらいのほうが打鍵音を堪能できる気がする。

 

録音した打鍵音を再生してみると、実際と完全に一致するとまではいかないものの、かなり耳で聴いた打鍵音に近いと思う。少なくともこれまで使用していたマイクに比べればかなり再現性が高い。ただしこれはPCにつないでいるスピーカーで聴いた場合。イヤホンやヘッドホンなどほかのもので聴くと印象が違うかもしれない。

 

音源の編集(ノイズ除去、ゲイン)

音量を大きくすると高音のピーというようなノイズ音が気になったので、Audacityを使ってノイズを除去した。4-5秒無音で録音してそこでノイズプロファイルを取得してノイズを除去した。この操作の前後で打鍵音が変わった印象はない。
 
またYouTubeに打鍵音を上げることにした。動画編集はShotcutというフリーのソフトで行った。編集といっても単にキーボードの画像と音源を組み合わせて動画にしているだけ。YouTubeで再生したときに少し音量が小さく感じたので、動画編集時に音源のゲインを0dBから10dBに上げた。
 

既製品キーボードの打鍵音

昔愛用していた既製品のキーボード3台
の打鍵音を録音してみた。それがこちら。
ここ最近は自作したキーボードしか触っておらず、久々これらのキーボードを使ったのだが、こんなにもカチャカチャするのかと衝撃を受けた。もしかしたら年季が入っているせいもあるかもしれない。特にG310はスペースキーの音がうるさく、わざとらしい印象だが、他のキーボードと同じように打鍵しているつもりでもこういう打鍵音になってしまう。
 
打鍵音の大きさはRealforceが一番大きいが、これはキーボードとマイクの距離が一定ではないのが原因な気がする。マイクをのせている三脚は全く変更せずにキーボードぎりぎりに近づけているが、キーボードの筐体の大きさや高さによってマイクとキースイッチの距離が変わり得る。打鍵音の大小を公平に比較するのは難しそう。
 

まとめ

念願のまともなマイクを手に入れて良い感じに打鍵音を録音できるようになった。これでModの効果をより直感的に比較できるようになるはず。次は自作したキーボードの打鍵音を録音しようかな。

 

この記事は自作したプレートレスPCBガスケットマウントrelief64で書きました。

 

 

ほぼプレートレス自作キーボードの製作

キーボードでこだわりポイントの一つが打鍵音。これにはスイッチのみならず、それを固定するプレートやPCBが大きな影響を与える。そういう興味から以前プレートレスPCBガスケットマウントキーボードを製作したが、その時にPCBもなくしてやわらかい素材でスイッチを固定するようにしたらどんな打鍵音になるだろうか、という興味が湧いてきた。そこでスイッチプレートとPCBをほぼ使用しないキーボードの自作にチャレンジしてみました。

 

きっかけ

2021年8月にGroup BuyされていたEQUINOX XLとTHERA75に触発され、プレートレスPCBガスケットマウントのキーボードを自作した。これまで作ったキーボードの打鍵音とは異なり、音色が自分の好みに近いものが仕上がった。

kgnwsknt-chef.hatenablog.com

 

ただし打鍵したときの底打ち音はそれほど小さいわけではない。これはやはりPCBの板が鳴っていることが大きな要因と考えられる。この自作キーボードではスイッチプレートをなくしたが、さらにPCBもなくすことができれば打鍵音がかなり抑えられるのではないだろうかと思い始めた。

 

上のプレートレスPCBガスケットマウントでのPCBの役割は次の2つ。

  • 電気回路
  • スイッチの位置の固定

このうち回路の役割については手配線+Pro Microで置き換えられる。手配線を行う場合、普通はスイッチの位置を固定するためにスイッチプレートや3Dプリンタの構造物が用いられる。これを柔らかいゴムなどの素材で作れば、打鍵音を抑え、さらに打鍵感も柔らかくできるはず。

 

Mill Maxソケットへの手配線のテスト

手配線でキーボードを組む場合、普通はスイッチの電極ピンにダイオードや線をはんだ付けするものだが、そうするとスイッチの交換は容易ではない(というかきっと二度と交換しなくなる)。スイッチの交換はできるようにしたかったのでMill Maxのソケットをつけれそれにはんだ付けしてみることにした。むかーし買ったソケットが家に余っていたのでこれで試作。

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MillMaxソケットへのはんだ付けのテスト

問題なくできそう。難易度はスイッチのピンにはんだ付けするのと変わりないし打鍵音にも大きな影響はないと思う。こうすればスイッチの交換がはんだごてを使わなくてで出来るようになる。

 

スイッチを固定するシートのテスト

PCBもスイッチプレートも使わずにスイッチをちゃんと固定できるのだろうかという不安があったのでテストしてみる。100均で調達した4mm厚のEVAフォームや家に余っている2mm厚のシリコーンゴムシートなどがスイッチプレートの代わりになるのかを試してみた。

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EVAフォーム4mmとシリコーンシート2mmで試作

これらでは全然スイッチを固定できない。EVAフォームではスイッチが全然引っかからずに簡単に抜けてしまう。シリコーンゴムは多少引っかかってくれるのだが、2mm厚だと簡単にシートが反ってしまうので不十分。しかしシリコーンシートには少し可能性を感じたので、もう少し厚い5mmのシートをモノタロウで調達してさらにテストした。

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シリコーンシート5mmでテスト

5mm程度厚さがあれば1Uのキーのスイッチを固定することはできそう。さて、さらに考える必要があるのは次の2点。

  • スタビライザーはどうするか?
  • シートが反っている場合どうするか?

スタビライザーはPCBマウント、プレートマウントの2種類あるが、プレートマウントは厚さ1.5-1.6mmの板に適合していて5mmのシートでは固定できない。PCBマウントのものを使う場合には、専用のPCBを作ってそれをどうにか固定しないといけない。どうしたものかと考えているとき、家にあったSU120があることを思い出したのでそれを眺めながら考える。ちょうど四隅にスルーホールが空いているので、これに針金(錫めっき線)を通し、シリコーンシートにあけた穴にそれを通す。

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2Uのスタビライザー付きPCBをシリコーンシートに固定するテスト

このやり方でちゃんと固定できるがわかった。6.25UのものはSU120には含まれていないのと、スイッチはPCBにはんだ付けしないとしっかり固定できないので、専用の小さなPCBを自分で作ることにした。

 

シートが反るかどうかは実際に作ってみないとわからない。最悪の場合にはスタビライザーと同じように針金を通すか両面テープを使ってケース底面に固定することにするかなーという安直な考えのまま、とりあえずやってみることにした。

シリコーンシートの発注

シリコーンシート5mmで試作したときにわかったが、これを手で穴を精度よくあけるのは不可能。なので業者さんにお願いする。Autodesk fusion 360で図面を作成。通常スイッチプレートを作る場合は、14mmx14mmの四角い穴をあけて、それを19.05mmの間隔で配置することになる。この時に気になるのはゴムのような柔らかい素材でどこまで幅が細いものが加工できるのかという点。例えば隣り合う1uキーの穴の端から端は5mmしかない。5mm厚のシリコーンシートでこの幅は可能なんだろうかと思いながらdxfファイルを添付して見積もりをお願いしてみる。すると、加工ができないというようなことはなくすんなりと見積もりが来た。

 

加工はゴム助にお願いすることにした。どのような加工方法になるのか、どの程度の加工精度なのかを尋ねてみると、加工はウォータージェット加工で、機械制御なので精度は高いとのこと。さて、どうやら加工精度は十分なようであるが、最終的に発注を書ける前に穴の大きさはどうしたもんかと少し迷った。1辺をピッタリ14.0mmとするのがいいのか、少しきつめがいいのか。少し小さめにするとしっかりスイッチを固定することができるが、スイッチがはめられないと自分で加工はできない(キー数が多くてやる気にならない)ので詰んでしまう。安全サイドに大きめにするとゆるくてスイッチを固定できなくなる。多少ゆるくても最悪プレートレスでPCBにスイッチはんだ付けするのに使用することにすればいいかという保険をかけておくことにし、結局穴の大きさは14.0mmx14.0mmとした。結果としてスイッチががっちり固定できるわけではなく若干固定が甘い気もしなくもないが、それなりに固定されるしスイッチが全然入らないということはなかったので良かった。

 

ゴムシートは天然ゴムやクロロプレンゴムなど様々な種類がある。ただ、ゴム臭いのは嫌なので結局シリコーンゴムを使用することにした。ゴムには硬度というものがある。100までの数字で表され、数が小さいほうが柔らかいらしい。シリコーンゴムは硬度50、70の取扱いがあるようなので、柔らかい50のほうでお願いした。

 

もう一点気になるのはシートの反り。これがあると最悪キーキャップが干渉したりする。柔らかいので反りは無いと思うと業者さんからいわれていたが、一応シートをケースに収めたときに凹の向きになるように依頼した。シートの端はケースで上から抑えられるからだ。結果として届いたシートには反りは無かった。

 

PCBの製作

6.25u用と2u用x3をタブでつなげたものをPCBをKiCadで設計してJLCPCBに発注。最初、デザインチェックで各パーツをつなげているタブが細すぎでダメと言われてしまった…。デザインルールを見ると、昔作ったマウスバイトが使えそうなのでこれに変更。これで無事Approveされた。下の写真が届いたPCB。

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出来上がったPCB

ここ最近はキーボードをつくるときにいつもUSB基板を別に作るので、おまけと思ってUSBレセプタクル用基板もつけておいた。ただ、届いたものを見るとケーブルをはんだ付けするためのスルーホールがなく、これでは使い物にならない。どうやらKiCadで作業中に誤って削除してしまったみたい。DRCは通ってしまうので気づかなかったようだ。こういうミスはどうやったら避けることとできるだろうか。どなたかいい方法知っていたら教えてください。

 

しかし自分でPCBを設計してみて感じるのは、本当にSU120はよくできているなということ。こういう汎用性・実用性が高いものを設計できるのはすごいなと思う。

 

ケース

ケースはお蔵入り状態の下の写真のアクリル積層ケースを利用することにした。

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お蔵入り状態のアクリル積層ケース

これはもともとトップマウントの打鍵感、打鍵音を体感したくて作ったもの。ただ、トップマウントはプレートをアクリルで作ったせいもあってか打鍵音がとてもうるさく音も好みではなかったため、全然使わなくなっていた。ただしケース自体は結構出来が良くて気に入っている。上面のマットブラックのアクリル板は四辺を面取りしてあり、マットな上面に対して面取り部分の光沢が良いアクセントになっている(なんとなく面取りしてみたらそうなった)。ケース底面はステンレス3mm厚で作っていてそれなりに重量もある。側面の積層部分はコストをケチるためにほぞ継ぎと六角スペーサーを駆使したパズルのような感じで組み立てたがこれもうまくいったし、底面ステンレス板はケース外形よりも少しサイズを小さくして上面からは見えないように隠すという試みも上手くっているので自分的には満足度の高いケース。

 

今回製作するキーボードはスイッチを固定したシリコーンシートをケース底面に乗っける感じになる。底面がステンレス製で頑丈なのでちょうど良い。Pro Microは下図のようにキーボードの右側の部分におさまることがわかったのでここに配置する。

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Pro Microの位置

 

手配線はんだ付けの準備

スイッチはGateron YellowのBottomハウジングが黒でTopハウジングが半透明のものを使う。ステムにはInvyr UHMWPEを使用。これはひどい傾きで酷評され、そののちに修正された V2。これらを組み合わせたものをKrytox GPL205g0でルブして使うことにした。久々ルブしたが、68個のルブはなかなかしんどかった。

 

配線図をあらかじめ準備しておく。下の図は最終的な配線図。

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配線図

今回はPro Microに配線するのだが、Pro Microでキーマトリックスに使用可能なピンは18。このキー配列を単純にやろうとするとrowが5列、colが15列としたくなる。でもそれだとピン数が足りないので、図のようにrowを半分に分ける。配線図ができたら、これを左右反転させた図も用意しておく。はんだ付けするときは底面側から見ることになるからだ。

はんだ付け

スイッチにMill Maxソケットを取り付けた状態でリード式ダイオードと電線をはんだ付けする。はんだ付け時はスイッチがしっかり固定されていたほうが作業しやすいのと、せっかく新しく製作したシリコンシートに誤ってはんだごてを当ててしまうのが怖かったので、家に余っていたアルミのスイッチプレートにスイッチを固定した状態ではんだ付けを行った。これが許されるのはMill Maxソケットを使ってスイッチと配線が着脱可能なおかげ。

 

電線にはサンハヤトのジュンフロンETFE電線AWG30を選定した。撚線だとはんだ付けしづらいのを経験していたので単線が良かったのと、決め手はTalpkeyboardさんがお勧めしていたから。ただし線はかさばらないようにできるだけ細い線がよかったのでAWG30にした。電線をはんだ付けするときに被覆が少し融けたりすることがあったが、この電線は被覆の耐熱温度が他のものよりも少し高いので、今回のはんだ付け作業中に被覆が融けるようなことはなかった。でも100mは絶対に使いきれない…。

 

ダイオードや電線のはんだ付けのやり方についてはこちらの記事を参考にした。先人の知恵は偉大で本当にありがたい。つらかったのは家に電線の被覆をはがす工具がなかったこと。ワイヤーストリッパーは2つも家にあるのにこれほど細い線に対応したものはゼロ。三が日に作業していたこともあり、工具は調達せずにカッターを使って根性で被覆を剥いた。慣れると結構簡単にできてしまう(単線だったからできたけど撚り線は無理です)。

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ダイオードと電線のはんだ付け

下の写真は配線が完了した写真。ケースに入れるときに配線を束ねて固定しておきたいので、ステープラーの針を使ってシリコーンシートに固定した。

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配線が完了。ケーブルが集まっているところはステープラーの針で線を固定。

 

ケースへのインストール

配線が完了したのでケースにインストール。そのままだとスイッチのピンがシリコーンシート底面より下に飛び出るので、以前自作したプレートーPCB間に仕込むためのPoronフォームをシリコーンシートの下に入れる。さらにその下に衝撃吸収フォームを敷いて高さを調整。Pro MicroのUSBコネクタは少しでっぱるので、衝撃吸収フォームの一部をカットしておく。

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飛び出ているピンの分の高さを稼ぐために3mmのPoronフォームを敷いて、その下に衝撃吸収シートを敷く

 

一見良さそうに見えるのだが、キーキャップを装着すると問題が明らかになる。シリコーンゴムシートの面が出ていないせいで数字行とスペース行のキーキャップがケースと干渉してしまう。

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キーキャップをつけてみると…

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スペースキーがケース上面と干渉してしまう

ある程度予想はしていたが、これでは使用できない。残念…。

 

打鍵音

アルファベットキーに干渉はないので、数字列にはキーキャップをつけずに、少しシリコーンゴムシートを上にずらしてできるだけスペースキーがケースに干渉しない状態でタイピングテストをして打鍵音を確認してみる。

 

打鍵音は期待通りとても静か。これまで触ってきたどのキーボードよりも静かだと思う。ただしスタビライザーのあるキーは(ケースとの干渉がなくても)それなりに音量がある。タイピングテストをすると、アルファベットキーはほとんど音がならないのに対してスペースキーの音が目立つ。大げさに言えばスペースキーの打鍵音しかしなくなるような感じで、タイピング音はアンバランスな印象になる。

 

せっかくなので打鍵音を録音して過去に行った方法で周波数解析をしてみる。比較したのは以下の3つのキーボード。

  • プレートレスPCBガスケットマウント、Gateron Pro milky yellow(relief64)
  • アクリル積層ステンレストップのガスケットマウント、DUROCK POM housing+UHMWPE stem(chex71sus)
  • 今回製作したほぼプレートレスのキーボード(chex71si)

GキーにSA-Pプロファイルのキーキャップをつけて打鍵音を録音した。下図が解析の結果。

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打鍵音の周波数スペクトルの比較

今回作成したキーボードはかなり打鍵音が抑えられていることが周波数解析からもわかる。特に3kHz以下の音がなくなっている。スイッチが異なるので平等な比較ではないが、6-8kHzの部分もほかに比べればレベルが低いのでkHzオーダーの周波数帯の音が抑えられていると考えて良さそう。

 

MT3、DSAプロファイルのキーキャップもつけて打鍵音を確認してみる。背が低いキーキャップは音が高くなる傾向があり、体感ではこのキーボードでも同じ傾向があってDSAが音が高めに聴こえる。ただし打鍵音が抑えられているためにキーキャップによる違いはほとんど気にならない。下の図は各キーキャップの周波数スペクトルを比較したもの。SA-PとMT3の違いはほとんどない。DSAは4-8kHzに違いが見えていて、これが音が高く聴こえる要因だろうか。通常のキーボードでは背が低いキーキャップを使うと打鍵音がカチャカチャという音に寄る感じする(個人の感想です)ので自分は避ける傾向があったが、このキーボードであればDSAのように背の低いプロファイルのキーキャップでも全然いいなと思った。

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周波数スペクトルをキーキャップを変えて比較

 

かなり打鍵音が抑えられることがわかったのだが、ここまで抑えられると他の音が気になり始める。例えば自分は木製の机を使用しているが、その振動音による低音をはっきりと感じることができるようになる。他のキーボードでは打鍵音が大きいので机の低音は全然気にならない。音の高低のバランスも打鍵音の重要な要素なんだなぁという気づきがあった。

 

打鍵感

打鍵感は自分の好み。これまでガスケットマウントのキーボードをいくつか自作したが、ガスケットで柔らかくしても金属のスイッチプレートを使っているためか底打ち時の打鍵感は少し硬く感じる。今作はそれに比べると柔らかくて指にやさしい感じがする。これはシリコーンシートだけでなくその下に仕込んだPoronシート・衝撃吸収シートのおかげもあるかもしれない。

 

まとめ

今回自作したキーボードでは端のキーがケースと干渉してしまうという残念な出来上がりとなってしまったが、いろいろ学習できた。

  • 手配線による自作キーボードの実績解除
  • Mill Maxソケットで手配線でもホットスワップ化が可能
  • プレートもPCBも無ければ打鍵音はとても静か
  • スタビ+PCBはスタビがないキーに比べて底打ち時の打鍵音が大きいのでタイピング時の打鍵音のバランスが悪い
  • 打鍵感はスイッチプレート、PCBを使った場合に比べて柔らかい
  • 打鍵音の良し悪しはキーによって音が大きく違わないことや高低の音のバランスも重要な要素

今回は使い物にならないキーボードになってしまったが、この構造は全く使えないわけではないと思う。次の2点をクリアすればきっと使えるはず。

  • すべてのキーをスタビライザーの必要のない1.75U以下の幅にし、スタビとPCBを完全になくす
  • ケース上面をカバーするプレートを取り付ける場合にはキーキャップとのクリアランスは少し大きめにする

さらに両面テープを使ってケース底面に固定するとか、配線の部分はシートに溝を掘るなど、できるだけ面を出すようにするとよりいいだろう。問題が解決できれば非常に打鍵音の抑えられた静音キーボードを作ることができる。今回はGateon Yellowを使用したが、静音スイッチを使うとさらに静音化できるはず。

 

今回は失敗に終わったがそれほどショックを受けてはいない。というのも前作のプレートレスPCBガスケットマウントが打鍵音EndGameへの道だと考えて始めているからだ。前作は64キーだったが、やっぱりもう少しキー数が欲しいなと感じているので68キーでPCBガスケットマウントを作ろうかなと考えている。その際、今回製作した5mm厚シリコーンシートを再利用できる。Poronとシリコーンゴムで打鍵音はどのように変わるのだろうか。気が向いたらそれについても記事を書くかもしれません。

 

この記事は自作したプレートレスPCBガスケットマウントキーボードrelief64で書きました。